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それじゃあまるで、本が生きてるみたいじゃないか。それに、宗助が選んだのではなく、本が宗助を選んだのだと、シオリは言った。聞き間違いだろうか。
宗助が首をひねる。すると宗助の思っていることが分かったかのように、シオリは彼に微笑みかけて言う。
「そうですね、本は生きていると考えてもらって構いません。そして、本来、本たちにだって、持ち主を選ぶ権利があります。あくまでここでの主役は、私たち人間ではなく、本たちなのです」
それを聞いて、宗助はシオリに色々なことを尋ねたくなった。しかし、彼女に向けようとした質問は、彼が本に目を向けたときに忘れ去ってしまった。
シオリの傍らのテーブルに置かれた本は、白い光に包まれていた。その光の中に、つるつるした紙や、はさみや、糸が吸い込まれていくのだ。
しばらくして光が収まると、先ほどの本は姿を変えていた。その姿を見て、宗助は顔をしかめた。彼の嫌いな、計算ドリルと大きく表紙に書かれた本だったのだ。
「よりにもよって、算数の計算ドリルなんて。ひどいよっ」
宗助の表情を見て、シオリが笑いをにじませた声で言う。
「手に取って、中身を見てみてください」
宗助は、おそるおそる、ドリルを手にとってみた。表紙には、大きなドラゴンと向かい合う勇者の姿が描かれていて、確かに普通のドリルよりは、面白そうに見える。
けれど、あくまで彼が求めているのは物語の本だ。計算ドリルではない。しかしそんな彼の思いは、目次を見て吹き飛んだ。
本は、勇者として選ばれた少年が、村の怖いドラゴンを仲間にし、魔王を倒しに行くストーリーが描かれていた。しかも、魔王は勇者と共に旅に出るという終わり方をしている。
「この本が、あなたにとって一番いい選択肢を準備してくれました。今から、その本の扱い方について、説明しますね」
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