1人が本棚に入れています
本棚に追加
「夢を諦めるのが、大人になるってことなの?」
「私だって好きで諦めたわけじゃないよ? でも夢だけじゃ生きていけないの」
眉間にシワを寄せて、納得いかなそうな顔の14歳の私がポツリと呟く。
「そんなの、私が一番なりたくないつまんない大人じゃんか……」
「あのねぇ、学生の頃は生活の心配なんてしなくていいけど、社会人はそういう訳にはいかないんだよ」
「だって今の私、全然楽しそうに見えない。お仕事して家に帰って寝るだけの毎日が楽しい?」
図星を突かれて一瞬カチンときたけれど、反論できなかった。
――楽しいわけ、ない。
「社会人」っていう鎧を纏っているうちに自分の心が徐々に失われていくようで、気が付いたら自分が自分じゃない何かに変わってしまうんじゃないかって。
24年間の人生の中で、今の自分が一番嫌いだ。
「ねぇ、もう一度思い出して? 手遅れにならないうちに……」
14歳の私はソファから立ち上がって私の前に立つと、私の額に手をかざした。
「私の心を、少しだけ分けてあげる」
温かい手のひらが額に触れる。その瞬間、14歳の頃の私の記憶が、走馬灯のように駆け抜けた。
書き上げた漫画を、友達が面白いと言ってくれたこと。
夜通し漫画を描き続けて、明るくなり始めた空をバルコニーから眺めたこと。
ただ純粋に作品を作り上げるのが楽しくて、これからもずっと漫画を描いていくんだと、信じて疑っていなかった。
カラカラに乾ききったスポンジに水が吸い込まれていくみたいに、ささくれ立った心が満たされていくのを感じながら、私の意識は途絶えた。
最初のコメントを投稿しよう!