二人の生活

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源基は何も知らないし、聞かなかった。 なぜか男性は苦手だが源基は平気だった。 小学生から見知った顔だったからだろうか? 今となっては分からないけど、今は一番大事な人で一番憎い人でもある。 過去を思い返すといつも嫌な夢を見て魘される。 それが同じベッドで寝ない理由でもあった。 源基は最初から何も異議は唱えなかったし、理由も聞かれないから楽だった。 だけど源基の恋人を持とう宣言から半年、もしかしたら源基はそういう事も気になっていて、実は全部知ってしまい嫌になったのかもしれないと思う様になった。 小さな街だし田舎だし、そういう話は尾鰭が付いてあっという間に駆け巡る。 源基は今年もその前も、一人で実家に帰っていたから地元で何か聞いていても不思議ではなかった。 何もなかった、事実は舐められただけ触られただけ、それはきっと噂になれば、最後までされたとか、母親に強制されたとかお金をもらってたとか、そんな話を源基は聞いたのかもしれないと、そう思うと触れない事も当然の様に思えた。 聞けばいいと思った事もある。 この半年、何度も聞こうと思った。 だけど帰宅した源基が鼻歌を歌う、上着から香水の匂いがする、映画のパンフレットを持って帰る、聴いた事もない趣味でもない音楽を聴く、いきなりケーキを買って来る、知らない名前の店で有名だってとか、美味しいんだよとか、甘い物、好きじゃない癖に…。 そんな変化を見ると話す気もなくなった。 好きでいるから辛い、気になるからモヤモヤしてイライラする。 興味なんかなくなればいい。 いつしか結論を出す。 自分の中で源基に何かを期待するから裏切られた時のショックや怒りが大きくなる。 最初から何も期待しなければ傷付きもしないし、イライラもしない。 源基にとって都合の良い結婚で、何となくの入籍。 いつでも解消出来る関係でそれだけの仲。 好きになってくれるかも、少しは好きでいてくれるかもなんてもう期待しない。 期待しなければ裏切られる事はないから。 私は徐々に彼との距離を取り始めた。 元々、食事の時間は別だったから、外で食べる様にした。 遅くに家に帰り、早く家を出る。 恋人の事は聞かないがルールだから何も聞かないし、気付いてないフリをする。 ただの同居人、ルームメイト、腐れ縁相手。 ーーーーー『一緒にいる意味ある?結婚の意味ある?』 心の奥深くでもう一人の私が聞いて来るが、私はそれに耳を塞いで気付かないふりを続けていた。
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