恋人を作りました

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仕事中は女を捨てていると、職場ではよく言われる。 実際の所、施工管理という仕事は家を建てるなら設計図段階から、出来上がるまで工程を管理する仕事で、様々な業者との間に入り、どの工程、どのタイミングで入ってもらうか打ち合わせもしなければいけないし、一つ工程が遅れたら全体が遅れるから、その調整もして行かなければいけない。 手が足りないなら足場組みも手伝うし、大工仕事も棟梁に聞きながら手伝う事もある。 内装に手が足りなければクロスも貼るし、出来る事は何でもやる。 今は大きな商業施設も任される様になってますます忙しくなり、恋人を作る処ではないし、一度失敗していると欲しいとも思わない。 やはり結婚には向かない人間だったのだと再認識した所で、男の作業着姿で髪を短く切りショートにして、普段気を使って塗っていた日焼け止めも、薄いファンデーションも止めてしまった。 もう綺麗でいる必要はない。 寧ろ邪魔、仕事の邪魔で人生の邪魔。 (女になんて産まれたくなかった。) (あんな奴に会いたくなかった。) 最近はいつもそう思いながら、奴がいない間に少しずつ荷物をワンルームに移動させていた。 仕事が思いの外早く終わり、時間をどう潰そうか、ファミレスでも行こうかと考えて歩いていたら、後ろから声を掛けられた。 振り向くと何処かで見た様な、見てない様な?不思議な感覚になる人がいた。 「私ですか?」 と答えると、その男性は実に形容し難い表情を見せた。 「牧本…緋色さん、ですよね?」 ともう一度訊き返された。 スーツ姿、パリッとした背の高い良い男に見える、こんな男性に知り合いはいない。 「あの?失礼ですが、どちらでお会いしましたか?申し訳ありません、覚えがなくて…。」 会社の側だったからそう訊き返した。 「会うのは初めて……です。お時間を頂けませんか?少し複雑で…その、あなたは嫌かもしれませんけど…。」 ハテナマークが頭に浮かび、男性の顔をじっと見た。 同じ歳か、少し上か下か…と考えてある事に気が付いた。 目の前の男性はいつかの母の彼氏に似ていた。 見つめているとその口から母の彼氏と同じ名字が聞こえて来た。 ファミレスならと答えて、数メール先にあるファミレスに先に歩いてもらった。 後ろを歩かれるのが嫌だったからだが、男性は何も言わず、聞かずに素直に前をいってくれた。
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