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ファミレスに入って落ち着かないとと、普通に食事をして良いですかと聞き、カレーライスを頼んだ。
早く来るからだが、お互いにアイスコーヒーを注文してそれと同時にカレーライスも運ばれて来た。
「食べながら失礼します。それでご用件は?大学の費用の事ですか?」
冷静になれと、目の前の人は罪のない人で母の彼氏ではないと言い聞かせていた。
憎い不倫相手の娘に、優しく手を差し伸べた人の息子だと思えば、気持ちは和らいだ。
「実は…母が入院をしまして……。」
「えっ!!お身体は何処が?お見舞いに伺っても…。」
驚いてオロオロとしてしまった。
私からしたら母から自由にしてくれた恩人である。
例えそれが自分の家庭、子供を守る為、その父親を性犯罪者にしない為だったとしても、私を助けてくれた事に変わりはなかった。
「大丈夫です。乳がんでしたが早期発見で…毎年、検査は受けていたので部分摘出で済みました。」
それを聞いて安心して背中を背もたれに預けた。
「そうですか……良かった。それを知らせにわざわざ?」
「いえ、僕は何も知りませんでした。入院した母が手術の前に万が一、自分が死んだらと話を始めました。自分の通帳に毎月、振り込まれているが自分が死んだらもう良いと相手に伝えて欲しいと。その時にその人がどういう人かを聞きました。うちは長男の僕と妹の二人で、あなたより二つ上になります。当時は高校生で大学受験の為、塾通いをしてました。妹は五つ下で…当時は小学校6年生でした。母は現場を見て自分の夫が何をしたか、それに対して不倫相手の女が娘に何をしたか直ぐに分かったそうです。母も…父親が再婚して連れ子で来た義理の兄にそういう目で見られてずっと逃げていたそうです。だからすぐに分かったと。」
「そうですか。終わった事ですし、お母様には大変お世話になりました。今でも感謝しています。」
軽く頭を下げて、すみません、いただきますねとカレーを食べ始める。
少しの動揺で手が震えるのを懸命に隠しながら。
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