恋人を作りました

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「母から聞いて、そんな男の血が流れていて苦しみました。妹は知りません。父親とは離婚しましたが、俺も話を聞くまでは父親として時々、会っていました。今はどういう顔で会ったらいいか分かりません。自分が汚く思えて…ただ謝りたいと。」 本当に申し訳なさそうに、嫌そうに彼は話している。 それが分かると怖がった事も今、彼に与えている苦痛にも、申し訳ない気持ちになった。 彼も被害者だ。 「………あなたは何も悪くない、謝る必要はありません。お母様も言われていました。子供に親の罪は関係ない。親の借金を子供が背負う事はないと。私はその言葉で随分と楽になりました。好きに生きていいんだと、お母さんから離れて良いんだと言われて。だからあなたも謝る必要はないし、父親にも普通に会えばいいと思います。妹さんも何も知らなくていい。そう思います。」 心からそう思えたからそう答えた。 「父親に普通に会えません。どうしてもそんな卑怯な事をした父親を許せない。浮気は頻繁でした。婿養子でしたから肩身が狭くて祖父の手前もあって息抜きで浮気するんだろうと母は言ってました。浮気のうちは一度、行きずりの相手なら、商売の人ならと目を瞑っていた様です。長期間の不倫となると話は別です。狭い田舎街で祖父の耳に入ったら、子供が聞いたら、母は現場を押さえて話をしようと相手の家に。」 「どうして男性は…浮気をするのかな?あ、いえ…すみません。女性もする人はしますね。偏見でした。」 目の前の人が男性だったと思い出し、小さな声で謝ると、いいえと優しい声が聞こえた。 「あの…お金は大して用意出来ませんが、何か出来る事はないか考えました。母への返済、残りを私に払わせて頂けませんか?何かしないとあの男の汚い血が…どうしても気になって……これから先、結婚も出来ない気がして…。」 寂しそうに話すので、気になった事を聞いてみた。 「ご結婚のご予定が?」 「いえ…恋人はいましたが、少し時間が欲しいと距離を置いています。本当なら今年中にプロポーズしてと考えていたのですが、そんな男の血が流れていると思うと、彼女にそれを話したらどうなるんだろうと怖くなって…。」 彼のお母様が今になってなぜ話したのか、病気を前に不安になる気持ちは分かるが、知らなくていい事で苦しむ彼を見て、居た堪れなくなった。
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