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「お金は必要ありません。あなたも被害者だと思います。全部忘れて彼女にプロポーズするべきです。」
そう言うと悲しそうに微笑んだ。
「知ってしまった以上、無理です。せめて…なにか。何かあなたに…あなたの役に立てる事はないですか?あ、これ私の名刺です。大金は無理ですが何かしないと自分が汚いままな気がして…。」
その苦しみは少しは理解できる。
彼は今、自分を綺麗にしたいが為に、私に許しを乞う為に何かをしたいと言っているのだ。
「あの……、本当に何でも?」
私の頭に一つの事が浮かんだ。
「はい!」
彼は明るい顔になる。
「ご結婚…はまだしない?」
「はい。」
「彼女さんは距離を置くという事ですが、別れてはいない?」
「すべて終わったら話すと、連絡する約束でそれまでは連絡もなしです。」
「誤解、されるかもしれませんが、話はしてくれて構いませんし、しなくても構いません。私の話を聞いて嫌なら断って頂いても構いません。話だけでも聞いてもらえますか?」
迷う事なく彼は即答したので、私は頼み事をする事にした。
結婚したが、一年前、夫からお互いに恋人を作ろう、夫婦でそういう気持ちになれないと言われた事、それから夫は本当に恋人を作り一年の付き合いになる事。
自分には恋人がいないが、恋人を作り夫の反応を見たい事。
その上で離婚を決めたい事を簡潔に話して聞かせた。
「恋人役をして欲しい、演じて欲しいんです。」
奇妙なお願い事を彼は嫌な顔一つせず、はい、の一言で了承してくれた。
「あなたの役に立てるなら…。よろしくお願いします、」
「あ、いえ、こちらこそ。」
館林祥一、大嫌いな男の息子に恋人役を頼んだ。
絶対に惚れない自信もあったから頼めたという理由もあった。
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