変化

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緋色はピアスの穴は開けていないし、イヤリングも普段はしない。 仕事上邪魔だからだ。 「あの……馬鹿!ルール破りやがった。人が帰って来ないのをいい事に!」 そこまで本気か、もう別れると口にするのも時間の問題かと考えた。 「……最初からなし崩しで結婚しただけだもんね?あんたは…。仕事に理解があるから話が合うから!そうじゃなきゃしないよね。一回…たったの一度、拒否しただけで触れないの?好きなら…愛してるなら触れたいと思うでしょ?一度断られたからって……何度でもめげずに来なさいよ!!男なら好きな女位、その気にさせなさいよ!その努力もしたくないくらい………興味は最初からなかったって事でしょ?」 ぼろぼろと涙が溢れた。 そもそもどうして泣かなければいけないのか、私だってなし崩しの結婚だったはずだ。 ピアスを見つめていて、小学生の彼が頭の中に蘇った。 蝉の声、夏休みの前、窓の開いた暑い廊下で誰もいないそこで、一瞬、目が合った。 名前だけを知っていて話した事はない。 おはよう位はあったかもしれない。 だけど小学生時代に何度となく目は合った。 理由は……今なら分かる。 私が源基を目で追っていたから。 中学も高校も同じ、変わったのは高校生になると目を隠して生活してたから目は合わなくなった。 密かに噂されているのは知っていて、汚い物を見る目で源基と目を合わせて、そんな目で見られたらと思うと堪えられそうになくて、目を隠した。 大学に入り、源基の周りは賑やかで連れている彼女は数ヶ月で代わっていた。 モテる男とは高校生の頃から言われていたが、彼女が頻繁に変わり始めたのはこの頃だ。 本人も否定はしてなかったし、合コンにも参加してた。 それでも目は合った。 高校の時よりもずっと、中学の時よりもずっと多く、視線が絡むことが増えた。 それで満足していたのも私だ。 (ずっと……好きだった。言えたらどんなに良かっただろう。もっと早く気付いていたら、あんな事がなかったら、源基を拒否しなければ…。) 結局、全て後の祭り、「たられば」。 源基は本気で好きな彼女がいる。 そしてこの家に、テリトリーに連れ込んだ。 おまけに相手はそろそろはっきりさせたいと、挑戦状(ピアス)を置いて行った。
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