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泣くだけ泣いて涙を拭いて、暫く家に居座る事にした。
このピアスを奴に叩きつけて、離婚届けを渡して、堂々と荷物をまとめて出て行こう。
かっこよく、私らしく、男なんかいらない、あんたなんかいらないそういう顔で…出来れば館林祥一に荷物運びに来てもらえたらと考えて、大きく息を吐いた。
買い物に行き、夕食の支度をしていると玄関が開いた。
(お早いお帰りで…。)
表情を変えずにお帰りとだけ言い、顔は向けなかった。
「ただいま、ていうか、そっちがお帰りだろ?今回は長かったな?お疲れ様。」
「うん、ありがと。食べる?」
「ある?」
「あるよ。ついでだし。」
「ありがとう。もらうよ。」
まるで男同士の会話、夫婦ではないしね、と二人分の夕食をダイニングテーブルに置いた。
食べ始めて、それをテーブルのお互いの真ん中に置いた。
カチリと音がした。
「なに?」
「ソファにあった。あんたの女の落とし物。私ピアスしないし、帰って来てないしね?ルール違反だよね?」
(よし!冷静に言えた。)
と食事を続けた。
「四日前さ、仕事中に倒れたんだよ、熱でさ。バイトの子に送ってもらったんだ。その時に落としたんだな。返しとくわ。」
普通に答えて、ピアスを奴はズボンのポケットにしまった。
「あんた馬鹿?イヤリングならまだしも、いやそれも落ちたら気付くけどね?ピアスが簡単に外れると思う?」
「外れるだろ?」
「外れる事もあるだろうけど、ソファだよ?身に覚えないの?そういう事してるから……激しく動いたから外れたし、外れても帰るまで気付かないんでしょ?ルール違反だよ。」
「なんもしてねぇよ!」
「してなくてもルール違反です。」
「じゃあどうしろっていうんだよ!熱で一人で倒れてろっていうのか?お前だって熱出たら彼氏に頼むだろうが!」
シンとした空気が流れた。
「ふうん…彼氏に頼むだろうが、ね?なら、あんたも彼女に頼んだって事ね?してなくてもどうでもいいわ。ルール違反はルール違反。あんたが決めたルールだよ。」
冷たい声で緋色はそう言った。
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