変化

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「………違反はごめん。罰は決めてないな。どうする?」 冷静な声が帰って来る。 (違反は、か。彼女は、否定しないのね。) 小さく溜息を吐いてから離婚届を出した。 綺麗に四つ折りを開いて、奴の方へ向けた。 「書いて。意味のない関係はやめよう。ピアス、態と置いて行ったんだよ。彼女はあんたと結婚したいんだ。別れて欲しいんだよ。明日ここを出て行く。もう家賃折半しなくても余裕で払えるでしょ?私に利用価値はないはずだよ。慰謝料いらないから終わりにしよ。これ以上は無駄な時間だよ。人生の無駄遣いだ。」 淡々と話してご馳走様と席を立ち茶碗を片付け始める。 奴は離婚届を無言で見つめていた。 荷物をまとめていても、奴は悲しそうに見るだけで言葉はない。 (そんな目で見られても……お互いに恋人持とうと言ったのはあんたじゃない。) だけど荷物を運ぶのを館林に手伝ってもらおうと考えていた心がその目で折れた。 (部屋に恋人を入れないルールだし、奴は破ったけど、私まで破りたくはないし…。) 自分に言い訳をして、翌日、緋色は数個の段ボールをコンビニに持ち込みワンルームの部屋に送った。 何度かコンビニと家を往復するのをここに奴がいたらなんと言ったか、ふと考えたがすぐに首を振って打ち消した。 (平日休みを二日取ってよかった。) 本当は冷凍のストックも切れているだろうから、買い物を大量にして入れておいてやろうと、洗濯もまとめてしようと考えての平日二連休だったが、残っていた材料で冷凍ストックのおかずを作り、後は自分の為に費やす、虚しい休みとなってしまった。 (帰って来る前にさっさと退散しよう。) そう思って15時には家を出た。 結婚指輪をダイニングのテーブルの上に置いて、今までありがとう、お幸せに、とメモを残して。 (私の気持ちも置いて行けたらいいのにね。) 玄関ドアを閉める時、悲しみと寂しさが胸を突いた。 静かにドアは閉まってしまった。 ******** 16時、息を切らして帰宅し、鍵のかかる玄関ドアを開けた。 靴がない、ガランとした部屋、緋色の部屋に行くとベッドなどの家具はそのままに荷物だけがなくなっていた。 ベッド、机、チェストに付箋が貼られていた。 ーー捨てていいからーー 文字を見て泣きそうになった。
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