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「まだ近くに…。」
玄関を出てマンションの外へ出た。
暫く辺りを走り回っていないと分かると、当たり前だよな、と小さく呟いて肩を落とした。
部屋に戻ってスマホを手にして電話を掛けたが既に着信拒否されていた。
リビングに入ってダイニングテーブルの上にあるメモと、その上に置かれた指輪を見つけると、涙が自然に流れた。
「ははっ……当たり前だよな。浮気してたの知ってるんだし……お互いに恋人を作ろうって言ったのも、お前とは無理って言ったのも俺なんだから。」
素直に言えば良かったのかなと後悔の涙は止まらなかった。
気が付けばいつも目で追ってた。
どうしてかは分からないけど、他の同級生の女子とは少し違って見えた。
大人しくて自分の意見も言わないのに、虐められてもやり返す強さがあって孤立しても平気な顔をしてた。
結婚してから聞いたら、
「無理に付き合って楽しい?合わせる事も大事だとは分かるから、合わせるとこは合わせてるけど、友達は無理に合わせる物じゃないでしょ?同情で数合わせに入れられる位なら一人の方がマシだわ。」
と答えた。
俺はその強さに、俺にはない物に惹かれたんだなとその時に思った。
それと同時に無理に合わせないと言い切った緋色が仕事の話が合うからとは言え、飲みに誘えば来てくれて、家を行き来して、一緒に暮らして結婚して、それが俺への愛情の全てに感じて嬉しかった。
中学三年の時、緋色の夏休みの噂は耳にしていた。
母親に売られたとか、自分が家で売りをしていたとか、それで母親の家から出て引き取られたとか噂は信じなかったけど、同じ高校になって緋色はバイトをしていると知った。
すごく忙しそうでバイト先にコッソリ言って帰り道を追いかけた事もある。
暗い道を一人で帰るのは危ないからって、言い訳して後を追いかけて、緋色が一人暮らしだと知った。
何にも話せないまま卒業して、大学で見つけた時は驚いた。
声も掛けられないまま、可愛いと思う子に告白されれば付き合って、目は緋色を追って違うとこばかり目立って、結局はすぐに別れる。
女の子にはなんとでも言えるのに、緋色の前に出ると何にも言えなくなった。
「俺、何も成長…してねぇ!!」
頭を抱えて床の上に座り込んだ。
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