1887人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
緋色が何処にいるか分からないまま無駄に時間は流れた。
二年ほど前に別荘を設計させて頂いた顧客が、娘さんの結婚が決まり、その婚約披露パーティをするとかで別荘でお祝いをするから来て下さいと招待を受けた。
うちの事務所の社長と設計をした俺宛ての招待状をわざわざ届けてくれた。
「場違いですし…。」
と恐縮する俺に、
「気にせんでいい!設計した別荘を見たくないか?それに仕事の話もあるんだ。娘の結婚を機に家の近くに土地があるからそこに家を建ててやろうと考えていてね。設計をお願いしようかと思っているんだよ。その話もしたいし、娘とも話して欲しいから是非来て下さい。パートナーを同伴してもいいからね。みんなカップルで来られるから、一人だと寂しいですよ。」
と豪快に笑って帰って行った。
お得意様で、娘さんの新居となれば豪華な家を建てるのだと予想出来た。
個人事務所には有り難い話だ。
社長は奥様と、俺は恋人の石山貴子を連れてホームパーティーと言うには豪華なそれに出席する事になった。
自分が設計した場所に足を踏み入れる事が出来るのは、とても光栄な事だ。
薄茶のスーツを着て、いつもは履かない上等の革靴を履いて、緋色のネクタイをして白いワイシャツで参加した。
社長は光沢のある黒のタイトスーツで奥様は綺麗な黒のロングドレスを着ていた。
俺がパートナーとして同行してもらった貴子さんは、淡い黄色のロングドレスを着ていた。
袖がきっちりとあるタイプで、背中は大胆に開いていたがいやらしく見えないのは貴子さんが大人の女性で上品で落ち着いた雰囲気があるからだと思う。
招待されたお礼を言い挨拶をして、お互いを紹介して、娘さんと後日、設計の打ち合わせをする日を相談して決めて、他にもお客はいるので早々に離れて、好きに楽しんでいってくれと、言われたので、立食形式の豪華な食事を楽しみながら、社長はしっかりと様々な人と名刺交換をしていた。
「ふう…。」
色んな人と話をしたなと、疲れたと壁に背を付けた。
「これ、美味しいわよ?食べない?」
貴子がお皿を手に隣に立ち、それを受け取ると、壁に背中を付けてもたれる。
「ずっと元気ないのね?「げんき」なのに…ニックネーム負けしてるわよ?社長に声を掛けて先に抜ける?久し振りにどう?楽しまないと損でしょ。奥さん、いないんだから。」
シャンパンを飲みながら貴子は甘い声を出した。
最初のコメントを投稿しよう!