それぞれの恋人

3/6

1887人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
パートナーはいた方がいいと、挨拶だけして帰っていい、との確認をして、館林に連絡を取る事にした。 祝いの席で館林を見たら、離婚後も奴の罪悪感は薄れるだろうと思ったし、タイミングがあれば恋人ですと紹介してもいい。 ちゃんと紹介出来れば、館林にも恋人役はもういいですと、彼女にプロポーズして下さいと、彼の心の中にある汚いと思う部分も、少しは取り除けるといいなと考えながら電話をした。 『はい、緋色さん?』 「こんにちは。今、お時間大丈夫ですか?」 『ええ。いよいよですか?紹介。』 「上手く行けばそのつもりです。無理にとは言いません。断って戴いても…無茶なお願いですから。」 『いえ、緋色さんのお役に立てるなら。母も退院しましたし集中出来ます。』 その返答にくすりとしてから、不安要素を聞いてみる。 「退院、おめでとうございます。よかったです。それで彼女さんには…まだ、連絡してない?」 『……はい。』 「お願いしておいてアレですけど、誤解されませんか?私の所為で戻れなくなったら申し訳ないです。」 『いえ。今の気持ちのまま向き合えない。それに父の事、母親と上手くいかなくなって離婚と話してあるんです。その時は俺もそれが離婚理由だと思っていましたし…。犯罪手前、そんなのが父親、それを話したら彼女が離れて行く気がしてまだ悩んでいます。』 苦しんでる、と分かる声に申し訳ない気持ちが湧いた。 「私のお願いを聞いて手を貸して頂けるのは助かるのですが、それで祥一さんは救われますか?恋人と向き合うか、知らないままで進んだ方がいいのではないですか?お母様も話すつもりはなかったと思います。もう一度、よく考えて…。」 祥一は自分と同じ立場、親の罪に無関係なのに、と思うと迷惑を掛けている気になり止めた方がという迷いの言葉を、祥一が遮った。 『いえ、緋色さんの幸せを見ないと。話すかどうかはそれから決めます。話さないで結婚するのは狡いですよね。』 「いいえ、お母様は話す気はなかった。だから私の支援をした。ご主人を守りたというよりは、お子さんたちを守りたかったんだと思います。それを考えたら知らない振りでも私はいいと思います。少なくとも誰が何を言おうが、私がいいと言っているのですから。」 「それも…母に援助を受けて大学に通えたから言える感謝の言葉ですよね。母が何も…緋色さんに助ける手を差し出していなかったら、緋色さんは今、俺の顔を見て許せると言えましたか?』 その質問にはドキリとさせられた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1887人が本棚に入れています
本棚に追加