それぞれの恋人

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「…正直に言います。分かりません。はっきりとしている事は祥一さんのお母様のお陰で私は救われた。大事(おおごと)にならずに済んだ。大学まで行けて好きな仕事を見つけられた。それが総てで、あなたとお父様は別の人格で全然、違う人です。血が繋がっているから、子供だから、あなたが汚いとは思いません。だから手伝って頂く事を心配しています。」 『ありがとうございます。恋人役は引き受けます。緋色さんの納得の行く形になれば、俺も彼女に話すかどうか、決められる気がしますから。』 「分かりました。よろしくお願いします。」 パーティの2時間前に待ち合わせをして、簡単な打ち合わせをする事にした。 仕事関係者には遠くにいる知り合いが偶然、出て来たので誘ったと出来れば、これが終わり次第、連絡は取り合わない方向でと決めていた。 パーティ当日、会社近くの美容室で待ち合わせをした。 良く急な取引先への挨拶などに行く時に使わせて頂いているお店で、今日もヘアメイクと着替えをお願いしていた。 「来た来た!緋色さん!ご友人、通して良いですか?」 奥の小さな部屋を借りて着替えをして、ヘアメイクをしてもらい、緋色は祥一を待っていた。 「遅くなりました。」 「いえ、時間通りですよ?かっこいいですね。」 辺りを見ながら入って来た祥一に言うと、緋色はどうぞと、自分の座っているソファの横を空けた。 「一応、写真、主催者でいいのかな?娘さんの婚約披露のお祝いパーティだそうです。パートナーは誰でもいいという事でしたので、偶然、こちらに出て来たタイミングがあった知人という事で…。」 とその会社の社内報を見せて、これが社長さんですと指差した。 「覚えました。知人のスタンスでいいのですか?」 「うちの会社関係者にはそれで、取引先にも。祥一さんかっこいいから、後で紹介して下さいとか言われても困りますし、知人だからそれは無理と言えますから。」 「ご主人もここに来るんですよね?確認済みですか?」 「ええ、今井設計事務所。個人事務所ですけど手広くやってまして…同じ建築関係なので仲間内で確認しました。彼女と、来るそうです…よ?」 胸がチクンとして、最後の言葉に詰まってしまった。
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