それぞれの恋人

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「簡単ではありますが、困ったら受け流して頂いたら…私も初めての人が殆どですから、挨拶だけしてそれで大丈夫です。招待して下さった相手の顔だけインプットして頂けたら。」 ソファから立ち上がり、黒のジャケットを羽織ると、ドアがノックされた。 「緋色さん。タクシー来たよ。」 お店のオーナー兼店長の野上が顔を出して、最後のチェックと二人を並べて見て、それぞれの髪に少し触れた。 「うん、二人とも素敵です。緋色さんもこの色で正解でした!すっごい似合います!カッコいい女性って感じです!いつもこんなカッコしてくれたらいいのにぃ〜。」 野上に悔しそうに言われて、緋色も苦笑して答える。 「いつもじゃ仕事にならないし、高いんでしょ?このドレス。いつもごめんね?部屋を使わせてもらってドレスの用意まで…。」 「ううん、うちは商売だし、緋色さんにはカットモデルお願いしてるし、気にしないで。長い前髪を上げて、緋色さんは首が細くて綺麗だから頸がいいですよねぇ。細い長めのイヤリングも正解でした。私、いい仕事出来て満足です!あ、請求書はちゃんと回しますからご心配なく。」 「色はつけないでね。」 くすくす笑いながら、では行きますか、と緋色は祥一の腕を取り、 「ここから宜しくお願いします。」 と悲しい笑顔を祥一に向けていた。 ******** 普通の家より豪華な別荘にちょっとあんぐりとしてタクシーを降りた。 他にも運転手付きの車や高級車が停まっていて、少し離れた場所に降ろしてもらった。 「別荘、とは聞いていたのですけど、ここまでとは…。」 ため息混じりで緋色が見上げて言うと、祥一もそうですねと、答えた。 緋色のドレスはホルターネックのふんわりとした柔らかい素材のノースリーブのロングワンピースで、少し上品な場にも着れそうな物で、背中が肩甲骨辺りまでゆったりと開いていた。 緋色、といっても赤ではなく、少し黒が入ったような赤で、野上は蘇芳色と説明していたが、同系色のリボンを腰に巻くとかなり上品さが増していた。 「緊張しますね。」 入り口にいる受付に招待状を見せて、目を合わせてから中へ入った。 玄関は広いロビーの様だが、そこから右手へ入ると、大きなリビングと向こうの洋室、奥のキッチン、一階が総て解放されていた。 廊下の扉も外されていて、隣の応接室への出入り自由で、広さはリビングだけでもかなりの物だ。 (はぁ〜〜芸能人の家みたい。) 綺麗なお客様達を見ながら、緋色はリビングに足を踏み入れ、主催者の姿を捜した。
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