微妙な空気

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「今井事務所も招待されている事は聞いていたの。元気そうで良かったわ。私も幸せにやっているからあなたもどうか元気で、お幸せに。」 事務所で招待を受けたから他に人がいなくて貴子を同伴した、と言う説明もその後の貴子の意味深な言葉でやはり恋人かと、その態度と空気で緋色は判断し、貴子の言葉は無視をして、笑顔を向けて自然に言えた、と小さくもため息を吐いて、ではこれで…とくるりと向きを変えるとクラッチバックを持っている手の手首辺りを捕まれた。 振り返ると源基が手を握っていた。 「……何でしょうか?」 笑顔で対応を試みる。 「お互いに恋人がいてもいい、だから緋色に恋人がいても構わない。離婚届は出してない。それはルールにない。」 「はぁ?だ、出してよ!今すぐ。」 ツカツカと2歩近付き、顔の前で小さく言った。 婚約披露パーティーの会場で離婚なんてワードを大きな声では言えない。 「出して欲しいならルール改正する。話し合いの場を…「必要ない。興味ない、意味もない!彼と幸せになりたいの!」 言い切ると勝手ねぇ、と言う声がした。 「どういう意味ですか?勝手は貴方達ですよね?恋人関係を続けて家にまで来て、神経を疑います。」 キッと貴子を睨んで緋色は言う。 「あぁ、ピアスの事?熱でフラフラで朦朧としてて。しがないパートで手が空いてるの私だけだったし、病院に付き添ってそのまま家まで送ったの。ソファで良いって言うからソファまで連れて行って、一緒に倒れ込んじゃったのよ。その時に落としたのね。風邪が移ると困るし、事務所も一人いないから送ったらすぐ戻ってと言われていたの。電話番しないと社長が出掛けられないから。すぐに帰ったわ。大丈夫だって言うし。」 ふふっ…と笑い、ヤキモチかしら、と聞く貴子に源基が止めろと呟いた。 「やめないわよ?ねぇ、石山(いしやま)陽治(ようじ)って覚えてる?」 瞬間、緋色の顔色が青褪めるのを源基は見逃さなかった。 「緋色さん、もう行きましょう。あなたも…石山さんでしたね。ここはお祝いの席なので個人的話は控えた方がよろしいかと思います。失礼します。」 仮の恋人に助けられて緋色はゆっくりと離れて、元の窓際に来ると小さく祥一にお礼を言う。 そこで祥一のスマホが振動した。 「どうぞ、出て下さい。」 「大丈夫ですか?真っ青ですよ?」 「平気です。お電話終わったら帰りましょう。」 「分かりました。失礼しますね。」 緋色に横顔を向けて窓の方を見ながら、内ポケットからスマホを出すと、祥一は慌てて通話をタップした。 画面の文字が恋人の名前だったからだ。
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