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「はい?えっ?!具合は?……はい、はい、……すぐ…すぐ行きます!」
通話を切ると同時に緋色より青褪めた祥一が緋色に顔を向ける。
「すみません!あの、」
「何か、急用ですか?具合って…もしかして!」
勘が働き、祥一の恋人に何か…と訊き返すと慌てて祥一が答える。
「はい。残業して帰ろうとしたとこで廊下で座り込んでしまったそうで、今は会社の医務室に。実家が遠いので俺に電話が。付き合いオープンでしたので…すみません。緋色さん!」
ガバッと勢いよく頭を下げられた。
「謝る事はありません。それより急いで!タクシーはすぐ表で捕まります。これだけ人がいますから。ありがとうございました。もう何も気にしないで絶対に彼女の手を離さないで!」
緋色のその言葉には、どうかあなたは…という気持ちが込められていた。
「はい!失礼します。」
慌てて出て行く祥一を見送ると、溜息を吐いて疲れたなと、ボソッと周りに聞こえない程度に呟いて、預けていた上着を受け取りに玄関ロビーにゆっくりと向かった。
********
離れて行く緋色と祥一をじっと見つめていた源基と貴子は、その様子を見ながら動けないでいる源基に貴子が囁いた。
「5年前、うちの主人は店を出した。輸入をしているから輸入雑貨の店。人に任せるけどオーナーね。まだ見習いの営業だったかな?牧本緋色、担当の一人は彼女だった。うちの主人、浮気性で女の子はみんな自分に落ちると思ってる。高級レストラン予約して呼び出して、振られたの。仕事で頭がいっぱいですとか言われた。側で聞いてたから確かよ。」
緋色の恋人が電話に出る姿を見ながら、源基はその話を聞いていた。
「それで終わりなら貴子さんが緋色を恨むのは筋違いだよ。」
目は緋色を見ながら言う。
「恨んでないわ。源基、知ってるの?緋色さんの事。主人ね、粘着質なのよ。振られたのが許せなくて彼女の事を調べたの。15歳の時、母親が付き合ってる男に乱暴されて…「言うな。」
源基の冷たい声が静かに貴子の声を制した。
「なんだ、知ってたんだ。本人から?主人ね……それを会社に言うぞって脅したの。一晩付き合えって。」
「えっ?」
緋色から目を離して源基は貴子の方を向いた。
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