微妙な空気

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玄関ロビーにはいなくて、クロークらしく作られた受付に聞くと、今、黒の上着を渡して出て行かれたと聞いて、急いで玄関を出る。 沢山の車が並ぶ中、黒い上着は沢山いた。 「緋色は……タクシーだよな。」 タクシーに狙いを絞り探していると、庭木の影に赤いスカートが見えた。 走って行く途中で緋色の声がした。 「止めて!帰るとこなんです!放して下さい。」 (ちょ…なんだ?) 慌てて急ぐと、植木の間を通り、奥の庭らしいところへ入って行くのが少しだけ見えて植木の中へ一歩足を踏み入れた。 3人位の男性の姿と腕を捕まれた緋色の姿が植木の隙間から僅かに見えた。 ******** 距離があったがタクシーに乗っている祥一が見えた。 (少しでも早く会えるといいな。彼女、何もないと良いな。) 母親が退院してホッとしている所に恋人が倒れたなんて聞いたら、心配で仕方ないだろうとこんな茶番に付き合わせた事を後悔しながら、運転手付きの豪華な車の横を通り抜けて、少し先に停車しているタクシーに向かった。 数台のタクシーが別荘の敷地の中には入らずに門の横に順番待ちの様に並んでいた。 恐らくは誰かが手を挙げれば、門から中へ入り、乗せて行くのだろうと、玄関を出た所で手を挙げれば良かったのか、と今更に考えて、自分らしいとふっと笑い、足元を見た。 普段は安全靴で踵の高いヒールは久し振りで歩き難く、舗装されていない土の道になるとピンヒールが細かい石に取られて転びそうになる。 少しバランスを崩すと、横から手が出て来て抱きしめられた。 「おっ!!危ないですよぉ?」 きょとんとして顔を見上げると、息子ですと紹介された彼がいた。 「すみません、ありがとうございます。お姉様、おめでとうございます。本日はお祝いの場にお招き頂きありがとうございました。」 腕から離れてペコリと頭を下げて言い、では、と先へ進もうとすると手首を掴まれて、腰に違う誰かの手が回されて、ヒョイと抱えるように植木の間に入れられた。 「えっ?あの……あの!!何か御用ですか?私、失礼するところで!」 放して戴けませんか、とお腹に回された手を緋色は片手で放そうとした。
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