気持ちを吐き出して

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「そんな事思ってないし、言ってない。他に狙われてる子がいたらって気にして連絡したんだろ?自分みたいに怖い思いをして欲しくないから。仕事だって切ってもいいと言われるなら、関係ないし警察も行けた。行かなかったのはうちの事務所が切られたら困るのを知ってるから…だよな?あの社長は俺と緋色が結婚してる事は知らないみたいだけど、うちへは新しい仕事の話もあったし、緋色が警察に行けばいずれは夫婦だって分かるしな。」 「別れたんだから関係ないし、あんたの為じゃないわよ。」 強気発言で言うが、頭にそれは浮かんでいた。 大手の工務店勤務の緋色の会社では、個人経営の会社の社長は切れる、他に大きな取引先も仕事の予定も詰まっているからだが、個人設計事務所勤務している源基には個人経営といえど羽振りの良い会社社長は切れない。 それは直ぐに緋色の頭に浮かんでいた。 源基は気にしていたけど、緋色は気にならなかったし寧ろ、人が良い社長と奥様、アットホームな雰囲気の事務所は人の良い源基が働くには合っているし、楽しそうに設計図を描く姿も好きだったから、好きな事をお互いに仕事に出来て、カバーし合いながら暮らせる事には満足していた。 だからこそ、新しい夫婦の形、などと綺麗な言葉で浮気を認めさせた奴のあの言葉は忘れられないし、言いたい事も山程あった。 ーー「だってさ、もう随分してないだろ?男として見てない、ていうか、最初から見てないよな?結婚って言われて都合良かっただけだろ?仕事の邪魔にならない男。もうさ、俺もお前相手じゃ無理だし。」ーー ブンブン頭を振るとその言葉を打ち消し、席を立った。 「帰る。」 玄関に歩き出そうとすると腕を掴まれる。 「逃げるのか?」 カチンと来て、振り向いて手を振り払い、最大限の声を出した。 「逃げる?誰が?私が?あんたでしょ?いつも逃げてんのは…あんたが言ったんじゃない!もう無理だって、私とは出来ない、都合が良いだけの結婚でお互いに恋人を作ろう。あんたが言ったのよ!許可が出たら不倫でも慰謝料請求されないもんね?さっさと恋人作って家まで上げて、自分で決めたルールも破って、あんたが離婚させたのよ!今更話し合い?ふざけないでよ!!」 はぁはぁ…と肩で息をして言い切ると、久々に奴の大きな声と真剣な顔を見た。
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