気持ちを吐き出して

6/9

1887人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
「子供、欲しくない訳じゃない。自信がなかったから、暫く仕事に集中してそれなりに一人前になったら作れたらいいなって思ってた。私の母親、恋人を取られたって娘を疑う人だから、そんな母親になるのかなって少し不安だった。源基との子供なら大丈夫って思えた。浮気しても一度だけで帰って来てくれるなら許せた。だけど恋人はやっぱ無理。許せないし、そんなに好きならその人を選べば良いと思う。私もそうする。この人と苦労したいと思える人と一緒になる。恨みっこなし、もうこれで終わろうね。」 最後は少し目を潤ませて緋色は言った。 「いや…あのさ、その離婚の事だけど…。」 「なに?」 少しだけ潤んだ目を指で拭いて訊き返すと耳を疑う言葉が出て来る。 「離婚届…出してないって言ったよな。」 覚えているか?と、確認する様に源基が聞くので、緋色はそのままの気持ちを答える。 「今日言われた事は覚えてるわよ。出しなさいよ。そろそろ名前、全部変えようって考えてたの。大変なのよ!女の手続き。」 あんた知らないでしょ、とフン!とソッポを向く。 「大変、だからやめたらいい、ていうか…書いてないし、破った。」 「はぁぁぁあ?どういう事?出してないだけでも信じられないのに、破ったってどういう事よ!」 両手でまたスーツの両襟を掴んで、今度は強めに力を入れて微妙に絞めた。 「だ……だって、俺は了承してない!緋色!!苦しい…。」 パンパン!と腕をタップされて我に返り、失礼、と手を離した。 殺すつもりはないのだから、首を絞めたのは行き過ぎだと反省をした。 「俺は……緋色と別れる気はない。」 「……恋人いるでしょ!!」 耐えられず、片手を振り上げて勢い良く頬にヒットさせた。 いい音が響いて、それでも源基は頬に手を当ててはっきりと目を見て言い返して来た。 「俺は認めてない!離婚はしない!恋人をお互いに作って新しい夫婦関係を築こうと言った。それが、そうする事が、緋色の気持ちが楽になると思ったんだ。それに俺は、緋色とずっと一緒に居たくて居たら触りたいし、抱きしめたいしキスしたい!」 「は、はぁ?あんた、何言ってんの?浮気して不倫して恋人を部屋に連れ込んだ男が何言ってんの?馬鹿じゃないの!」 怒りながらも真っ赤な顔を源基とは反対側に向けて、緋色は腕組みをし足を組んだ。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1887人が本棚に入れています
本棚に追加