過去と現在

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私と祥一さんは疾しい事は何もありませんし、恋愛感情もありません。 困った私を助けてくれただけです。 祥一さんの性格は直子さんに似ていますね。 祥一さんにご迷惑をお掛けした事、無関係な辛さを味合わせた事、直子さんにも申し訳なく、お手紙を書かせて頂きました。 過去の母の過ちを大変に申し訳なく思っております。 その母から助けて下さった直子さんには感謝の言葉では足りないほどです。 本当にありがとうございました。 祥一さんには今日を最後にもう会いません。 どうかご安心されて、お身体にお気を付けてお過ごし下さいます様。 お元気で、さようなら。         牧本 緋色 ーーーーーーーーーーーーーーーー 寝室にカサカサと、源基が手紙を封筒に戻す音だけが響いた。 「……15歳の緋色を、助けてくれたのは…館林さんのお母さん?」 「そうよ。」 「館林さんに恋人役を頼んだ。」 「そうよ。」 ベッドに横になったままで、上半身を片腕を付いた形で起こして手紙を読んでいた源基は、それを封筒に戻すと聞きながら背中を向けてベッド横に座っている緋色の前に手を伸ばし、差し出しながら聞いた。 「館林祥一さんはどうして今更、緋色に会いに来たの?」 前に差し出された手紙を受け取り、サイドボードに上に置いてから答える。 「お母様がご病気になられて、手術が決まってきっと、気が弱くなられたんでしょうね。離婚した本当の理由、今も大学のお金を振り込んでいるの。全額返す事も出来るし、もうすぐ終わりなんだけど、万が一、自分に何かあったらそれを話しておこうと思われたのかもしれない。自分の父親がした事を祥一さんは知って傷付いた。」 「それで会いに来て、何かしたい…謝罪のつもりかぁ。」 溜息を吐いて源基はベッドに仰向けで寝転んだ。 「父親が……そっか…もしかしたら自分も、そう思うってこういう気持ちか。違うって思うけど少し不安になるな。」 話しながら、だから緋色も、と源基は緋色の背中を見つめる。 子供を作る事、嫌だった訳じゃないと聞いて嬉しかったが、今の話を聞くと母親と同じ事をする、という不安と一人で向き合っていたんだなと悲しい気持ちになった。
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