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「明日も大丈夫かな?」
ボソッと食べながら源基が言うと、カチャンと緋色が箸を皿の上に置いた。
「ね、嘘でしょ?今日も?夜も?」
「何の事?明日は天気、大丈夫かな?だけど?」
ニヤリと言われて、恨めしい目を向けて反論をする。
「あ、そう。じゃあ今日は自分の家に帰るわ。家あるし!」
「えっ?ここ家でしょ!」
「違うわよ!自分で部屋借りたもの!荷物も着替えも全部そっちだし、家に帰るわよ。明日の仕事の準備もあるし、ここには私の荷物は何ひとつないんだから!!」
強気の態度で言うと、席を立った源基が無言でテレビボードに向かい、何かを手に椅子に戻った。
「何よ!」
味噌汁を飲みつつ睨んで言うと、差し出された手をゆっくりと開いた。
手のひらの上に、このテーブルの上に置いていった結婚指輪がコロンと転がっていた。
「この部屋に緋色の物はいっぱいある!思い出もこれも茶碗も…その椅子もクッションも俺も!全部緋色が選んだ緋色の物だ!」
じわりと目が潤んだ。
「ばか!本当に馬鹿!洋服ないから取りに行く。引っ越し代、勿体無いから源基、運びなさいよね。」
言うと同時に左手を出した。
離婚しようと家を出て源基から離れて生きて行こうと決めたのに、何故か家に居て、無理と言われたのに抱き潰されて、今までの事を許せるかと聞かれたら……正直、自信がない。
だけど、浮気を黙認していたのも自分で、恋人を作ろうと言われて何も言わなかったのも自分…嫌な事は嫌、好きな事は好き、自分の過去も怖がらずに信じて話すべきだったと、お互いのすれ違いを反省もした。
「ん!!仕方ないから一緒にいる。源基も外したら許さないし合コン行ったら首絞めるから!あと!浮気したら私もするから!分かった時点で同じ回数。それが嫌なら絶対しないで!」
これが今の素直な気持ち。
「行かないし、しないし、二度と悲しませない。聞きたい事は聞くし言う。だから緋色も約束して?なんでも話して、拒否する時は可愛く言って?それで我慢するから…ね?」
何気に難しい注文をされたな、可愛い拒否ってどんなのだ、と思いながら左手の指に指輪がゆっくりと源基の手で通されるのを見つめた。
お帰り、と心で言うとくすぐったい気分になった。
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