二人の生活

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妻は俺とは真逆。 人の目は気にしないでしたい事に突き進む。 人とのコミュニケーションは苦手で努力しているのがよく分かる。 そんな妻を学生時代から見て来た。 地味で肩につく程度の黒髪を無造作に束べていつも本を読んでいる様な人で、学生時代は少し話した程度で、就職して再会した時、生き生きした仕事振りに驚いたものだった。 個人の住宅の仕事だったが、俺には初設計を任された家で何度も現場に足を運んだ。 そこに初めて任されたと、建築施工管理技士として牧本(まきもと)緋色(ひいろ)がいたのだ。 あのコミュニケーション苦手な奴がと驚いたが、仕事はしっかりとしていた。 男が殆どの現場で自分より歳上の人に対して意見を言うその仕事は、正直、彼女には不似合いに思えた。 学生の頃に比べたら幾分灼けた肌の色をしていたが、それでもまだ色白で、細い体をしていてどう見ても人付き合いが苦手で、高校生の頃の様子を思い出す分には男性が苦手っぽい。 それなのに男性の多い現場を管理し取り仕切る職種で、大学で見掛けた時も驚いたが、インテリア系に就職するのだろうと考えていたから、現場での再会は驚き以外なかった。 ある意味新鮮で緋色に興味が湧いた瞬間でもあった。 しかし彼女は住宅に掛けられた足場も軽くヒョイと上がっていくし、クロスが遅くなっていると聞けば、職人に混じってクロスを貼り出すし、にこにこしながらも親方に言いたい事もズバズバ言い、時に飴、時に鞭、頭を下げては謝罪と感謝の言葉を繰り返し、しっかりと現場を管理していた。 (あのコミュニケーション苦手な奴がねぇ…就職すると変わるもんだな。) そんな風に感心したのを覚えている。 俺にしても初めて設計した家で、完成した時は本当に嬉しくて、職人も誘って飲みに行き、そこに緋色もいて若い職人と意気投合しているのを見て間に割って入った。 自分でも意味不明な行動だったが、それ以来飲み仲間、仕事上の愚痴を言ったり聞いたり相談したり、女性ならではの設計に対しての意見も聞けて俺も少しずつ大きな仕事を任される様になり、緋色も商業ビルまでも任される様になっていき、お互いにプライベートの時間がきつくなり、帰って寝るだけーなんて会話が出始めて、行き来していくうちに現場が近い方の家に泊まる様になり、2LDKの部屋を借りて折半した方がお得と考えて、同棲を開始し、半年も経つとこのまま一緒に暮らした方が…いつか離れるのも嫌だな、なんて考え始めてアルコールの力を借りて結婚を口にした。
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