二人の生活

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「源基、私、今日から内装に入るから現場に殆どいる。」 「そうか、分かった。遅くなる?」 「今日はどうかな?まだ初めだから早く帰れると思う。夕食は自分でやるからいいよ。気にしないで。」 「分かった。現場、気を付けて。」 「ありがとう。源基ももうすぐコンペでしょ?悔いがない様に頑張ってね。行ってきます。」 「ありがとう…行ってらっしゃい。」 出勤は源基の方が遅い。 依頼された設計の締め切りに間に合わない時は事務所に泊まりや、朝早く出る事もあるけど、きちんと進んでいれば朝は9時出社、帰りは18時まで。 設計事務所は依頼された仕事がきちんと納期までに提出されれば、顧客からダメ出しされない限りは定時で上がれる。 勿論、その後で金曜は飲みに行くとか、合コン参加とか、一夜限りの遊びとか……あぁ、そうそう、今は恋人がいるんだった。 18時から23時までは恋人に時間を使うんだと思う。 朝の僅かな予定の会話と夜のちょっとした会話、おはようとおやすみ、いってらっしゃいといってきます、これが新しい夫婦の形かぁと、緋色はため息を吐いた。 二部屋ある部屋をそれぞれの部屋にして、そこで寝るから本当にルームシェアと変わらない。 休みの前日に一緒にリビングで飲んで、そんな雰囲気になったらどちらかの部屋に行く、そんな事も半年前から一度もない。 私が悪いのかもしれない、けれど謝る事なのか、謝って戻れるのかも分からない。 無駄に時間だけが過ぎて、結局彼も、私の嫌いな人種なんだと頭の隅で思い始めた。 私の嫌いな人種、それはマウントを取る人、人間の価値を自分の価値観で決めて下に見る人。 母がそういう人だった。 実父と母は私が三歳の時に離婚した。 実父は随分とお金のある人らしく、養育費はかなりの額を振り込んでくれていたらしい。 母はブランド物を買い、いつも綺麗にしていて、その頃は何処かの会社の事務に勤めていた。 小学生になる頃には数人の男性が家を出入りする様になり、酒を飲みタバコを吸い、宴会の様に毎日大騒ぎで家にいるのが嫌で外にいた。 高学年になると母は仕事を辞めた様で、また実父に養育費を上げてもらったのかと思っていたが、家には数人の若い男ではなく、いつも同じ男性が来る様になっていた。 上は作業着で下はスーツのズボンで、40歳過ぎ位の優しそうな人だった。 母はこの人と再婚するのかなと思っていた。
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