二人の生活

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その人を恋人だとある日、母に紹介された。 「あんたももう大人だし良いかなと思ってね。お母さんの彼氏。仲良くしてね?」 (お母さんの彼氏?) なんだ、結婚しないのか、と少し残念に思った。 結婚したら父親が家にいて、知らない男性が出入りする事もないし、静かで勉強も捗ると思ったし、何よりも母が少しは「母親」になるかもしれないと期待した。 朝ご飯は無理でも夕食は作ってくれるかもしれないし、三者面談はともかく、家庭訪問位は普通の家みたいにやってくれるんじゃないかと期待した。 その頃から母は、派手な服はあんたには似合わないから、せっかく知り合いからもらったけど…と言いながら、小さいものは売りに行き、自分が着られる物は着ていた。 娘をコケにするのは好きみたいだった。 何も言う気はないし、そんな誰が着たかも分からない洋服を着たくもないので何も言わなかった。 中学三年の夏、部屋で勉強をしていると母の彼氏が家に来た。 「お母さんは?」 部屋の襖は暑いので風通しに窓と襖と台所の窓とを開けていた。 玄関、横に2畳の台所、戸があって4畳半の洋室、続きで6畳の和室、その横に同じく6畳の和室、真ん中の和室が私の部屋で、勉強をサボっているのが見えるからという理由で座卓を壁に付けて置かれていた。 実際は横の部屋でお酒を飲んだ母が声を掛けやすい様にだと思う。 開いた襖の所に壁を背に座り込み、徐に母の彼氏は私に言った。 「おじさんさ、お母さんと別れないといけなくなってね。今日はその話をしに来たんだ。お母さん、知ってるからさ、多分、聞きたくなくて逃げたんだと思う。今日は帰りは遅いよ。おじさんが来た事、伝えてくれる?慰謝料、無しにしてもらうからそれで綺麗に忘れてって。」 「…………慰謝料?」 (慰謝料無しってどういう事?慰謝料って悪い事した方が謝るために払う物でしょ?無しにしてもらうからって…それ、お母さんが慰謝料請求されてるって事?なんで?) 頭がこんがらがり、いつもは開かない口を開いた。 「母が慰謝料を請求されてるって事ですか?どうして?おじさんと母は仲が良かったのにいきなり別れるって変ですよね?別れ話に母が逃げたって事ですか?どうして……「お母さんが結婚してる人に手を出したからだよ。」 突然、2メートルは距離のあったその場所から、母の彼氏は私の目の前まで来て口を片手で塞いでいた。 何がどうなっているのか、外してもらおうとフガフガ言いながら手を出すと、その手を捕まれて背中から畳に倒された。
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