二人の生活

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(なに!?) 声が出ないままフゴフゴと声を上げると、静かにねと言われ、耳元に息が掛かる程近く声を出された。 「会えるのは今日で最後だからね。お母さんが悪いんだよ?話し合いなのに逃げるから。この時間に来る事はちゃんと伝えてあったのにね。うちの奥さんはカンカンでね。慰謝料200万をお母さんに請求したんだ。分かるよね?頭いいって聞いてるけど?」 うちの奥さん、慰謝料、それでこの人と母親が不倫していたという事は瞬時に理解した。 そして200万なんて大金が毎日やっとの生活のこの家にあるはずがない事も知っていた。 (彼氏?何処が彼氏だよ!!) 腹を立てていると、首からデコルテにかけてナメクジが這う感触がした。 (………気持ち悪い!) 「いい子にしててね?これでお母さんの慰謝料、おじさんが代わりに払ってあげるからさ。お母さんにも内緒だよ?」 (はぁ?ふざけんな!) 足をばたつかせたが、体重をかけて上に乗られて、足もしっかりと挟まれて身動きが出来なくなった。 母の彼氏は暫く、首筋、デコルテを舐め、嫌がる私を見ては満足気に笑っていたが、足を触り始めて吐きそうと思った瞬間、玄関が開いて母の声がした途端、同時に飛び退いた。 だけど母には玄関から真っ直ぐにその様子は少しは見えていただろう。 勢いよく上がり、ズカズカ歩いて来て私を叩いた。 「あんたの所為か?だから別れるなんて言い出したんだね?母親の彼氏に手を出すなんて、なんて娘なんだよ!恩知らず!」 一気に体の力が抜けた。 その後すぐに、彼氏の奥さんが乗り込んで来たのが私には幸いだった。 奥さんは自分の夫が私にした事を信じてくれた。 血の繋がりって何だろうって思った。 旦那さんに被害届を出さない代わりに、奥さんは仕事をしながら高校へ行く事の手続き、後見人、アパートの保証人になってくれて母からは離れられた。 仕事と言えど学校が終わってから、夕方から店が閉まるまでのバイト。 それで生活は出来ない。 奥さんは支援を申し出てくれて、大学の入学費用も全額、授業料半分を面倒見てくれた。 残りは奥さん名義にお給料が入る都度、振り込む約束になっている。 母は奥さんを前に何も言えなかった。 結果的に私を庇い、信じ、助けてくれたのは嫌悪感を覚えた相手の奥さんだった。 旦那さんとは離婚はしてない。 子供が成人したら考えると言ってたけど、どうなったかは知らないし知る必要もない。 母は暫くして新しい彼氏という男性と、その人の故郷へ行くんだと言っていた。 どうしているかは知らないし知りたくもない。 これが私が対人恐怖を覚えた最初であり、男性が苦手な理由だ。
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