救済のスープ

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救済のスープ

 明るい陽の入る、家で一番良い部屋の一人掛けのソファに座り、ベッドで眠る母を見ていた。 少しだけ開けた窓から、遠くの子供達の声と、庭の桜の花びらを連れて風が優しく侵入してくる。  花びらが白い枕カバーに1枚落ちたのを見ながら、この気持ちの良い日に私は心底うんざりしていた。  いい加減、母親の介護に疲れていたのかもしれない。 父は娘がいて良かったなどと何の疑問も持たずに笑顔で言うような男で 「病める時も、じゃないの?」 と言っても困った顔をするだけだった。  母を起こさない様にそっと立ち上がり、カーディガンを羽織るとなんとなく慌てた気持ちで玄関を出た。 (これからどうしようか…)一時間ほどなら時間はあるだろう、と見当をつけたが、したい事もすべき事も何も思い浮かばなかった。  左手に握ったスマホが震えた。 見ると、学生時代からの友人で、 「タピオカのストローでスープが飲んでみたい。熱々の」 と書いてあった。 「私も丁度してみたいと思っていた」 と張る必要もない見栄を張って返信をした私は、気づくと久しぶりに笑っていた。
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