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オニオングラタンスープ
ふと目を上げると妻が変な顔をして、口の中の飴を転がす様な仕草をしていた。
「どうしたの?」
「最近、口の中に血豆が出来るの」
「見せて?…ぅわっ」
予想してたよりも大きな血豆が出来ていて、思わず声が出た。
「バケットの皮が固すぎたのかしら」
「歳じゃない?」
僕が笑うと、眉根を寄せて洗面所へ行った。
僕は席を立つと、パントリーからカレーに入れる「飴色玉ねぎ」のパウチを取り出し、鍋にあけて水とコンソメを入れ火にかけた。
そこへ妻の食べかけのバケットとピザ用チーズを放り込む。
「あらいい香り」戻った妻が言う。
「即席のオニオングラタンスープを作ってるよ」
妻は鍋を覗き込み「ほんとに即席ね」と笑った。
笑うと目尻の皺が深まる。
白髪は染めず、グレーとも薄い茶ともつかない髪色になってきた。
目尻にかかる細い髪を耳に掛けてやると、目を細めてそっと寄り添ってくる。
流しの横にある小さな花瓶の、萎れかけたベージュの薔薇が目に入る。
昨日よりも1枚、薄いヴェールを掛けた様に存在感を失っている。
僕は黙って妻の肩を抱く。
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