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夜ノ森喫茶
タキシードの兎はフィーユに気づくと、お辞儀をしました。大きくて真っ赤なおめめには、不思議顔のフィーユが写っているのが見えます。
「これはこれは、可愛らしいお嬢さんですね。ようこそ。夜ノ森喫茶へ」
兎は優しいテノールでフィーユに話しかけました。フィーユはポケットを漁ると、残念そうにうつむきます。
「どうしました? お嬢さん」
「あの……私、お金持ってないの……」
「ここは夢の中ですので、お金はいりませんよ。さぁ、お席へご案内します。どうぞ、こちらへ」
兎はふたり掛けの席にフィーユを案内してくれました。キノコのテーブルと切り株の椅子に、フィーユは目を輝かせます。
「わぁ、椅子もテーブルも可愛い」
「お気に召していただけたようで何よりです。今、お飲み物をお持ちしますね」
兎はお辞儀をすると、森の中へ入っていきました。兎を目で追っていると、向かいの席から物音がしました。驚いてそちらを見ると、ここに来るまで追っていた兎がちょこんと座っています。
「兎さん、こんばんは。どこに行っちゃったのか、気になってたの」
フィーユが声をかけても、兎は鼻をヒクヒクさせるだけ。タキシードの兎のように話してくれません。
「おや、ルコンではありませんか。お嬢さんにご挨拶なさい」
いつの間にか戻ってきたタキシードの兎は、フィーユの向かいに座っている兎に優しく声をかけます。ルコンと呼ばれた兎は鼻をヒクヒクさせると、小さな声で「僕、ルコン」と名乗りました。
「すいませんね、お嬢さん。ルコンは恥ずかしがりやさんなんです」
「ううん、気にしないから大丈夫」
「よかったですね、ルコン」
ルコンは長い耳を揺らしながら、コクリとうなずきます。あたたかい気持ちでルコンを見ていると、目の前にコーヒーカップと小さなシュガーポット、そしてミルクポットが置かれました。
「今スイーツを作っていますので、できあがるまでこちらをどうぞ」
そう言って兎は、星型のお皿にのったこんぺいとうを置きました。色とりどりのこんぺいとうは、優しい光を放ちます。
「わぁ、キレイ……!」
「それはね、星くずのこんぺいとうっていうの。ちょっとひんやりしてて、とっても美味しいんだよ。いいなぁ、僕も食べたいなぁ」
ルコンが羨ましそうに言うと、兎はクスクス笑います。
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