兎を追って

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兎を追って

 夜、絵本を読んでいる女の子に、お母さんが優しく声をかけます。 「フィーユ、そろそろ寝なさい」  だけど、最近怖い夢ばかり見るフィーユは、ひとりで寝るのが怖いのです。すがるようにお母さんの腕を掴みました。 「お母さん、一緒に寝てくれる?」 「お母さんはね、まだやらなきゃいけないことがあるの。それに、フィーユはもう10歳なんだから、ひとりで寝ないと」 「はい、お母さん……」  お母さんを困らせてはいけないと思った優しいフィーユは、お母さんと一緒に寝ることは諦めて、自分のお部屋に行きました。  フィーユはベッドに入ると、赤い蝶ネクタイが似合う、白い兎のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめます。兎の名前はシャンティ。フィーユが赤ちゃんの頃から一緒にいる、大事なおともだちです。 「シャンティ、夢の中でも一緒にいてね? おやすみ」  フィーユはシャンティにおやすみを言うと、そのまま目をつぶります。どんなに夢が怖くても、遊び疲れたフィーユはすぐに眠ってしまいました。  夢の中、フィーユは暗い森の中にいました。お月様とお星様がきらきら輝いていますが、それでも森の中は暗いのです。 「やだよ、怖いよ……」  心細さにフィーユが泣きそうになると、真っ白な兎がぴょんっと姿を現します。兎はシャンティにとてもそっくりですが、蝶ネクタイの色が違いました。シャンティは赤ですが、この兎は黄色の蝶ネクタイをつけています。 「わぁ、兎さんっ!」  兎はフィーユを見上げると、奥へ奥へと跳んでいきます。 「あっ、待って!」  フィーユは慌てて兎を追いかけました。けど、兎はなかなか見つかりません。  探し回っていると、木でできた小さなトンネルを見つけました。兎の丸くてふわふわした尻尾も見えます。 「兎さん、待って!」  フィーユが声をかけると、兎は少しだけ振り返ってから、小さなトンネルに入っていきます。トンネルはフィーユがかがんでようやく通れるほど小さくて、兎を見失わないようにするのがやっとです。  ながいながいトンネルを抜けると、タキシードを着た兎がいました。この兎は体は大人の男性なのに、顔だけが兎なのです。不思議なことに、フィーユはその兎が怖いとは思いませんでした。
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