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「あ、あ、焦ったぁーッ!」
「雄介、なに大声出してんだよ。というか、そんなところに座り込んで何やってるんだ?」
廊下の奥のリビングから、俺と同じ顔をした男が呑気な顔で出てきた。
「兄貴、元カノに俺の話をしてなかっただろ?!」
「言う機会なかったしもう別れたからな。それがどうかしたのか?」
兄貴はきょとんとした顔でこちらを見ている。
ーー俺たちは双子だ。違う大学に通っているので、彼女が知らないのもムリはない。
最初は人違いだとちゃんと言おうとしたのだが、だんだん言い出せない雰囲気になってしまったのでなんとか話を合わせたのだった。
バレずに済んで本当に良かった。そんな俺の影の努力なんて知るよしもない兄貴がへらへらと笑った。
「元カノの話はいいよ。それより今、部屋に彼女来ててさー。せっかくだから雄介も挨拶してってよ」
「……わかった。今行く」
俺は元カノの話は言わなかった。兄貴はもう新しい恋を見つけたんだから、後ろ髪を引いてひっかき回すような行為は余計なお世話というものだ。
元彼女、亜希子さんは自己満足だがお礼を言うことで、終わった恋にさようならを言えたんだろう。
そう考えると、兄貴の今の恋愛と亜希子さんの今後の両方を、俺が後押ししてあげたことになる。そういうのも悪くない。
俺だけが真相を知っているんだなぁと思うと自然と笑みがこぼれた。兄貴は不審な顔で俺を見ている。
「気持ち悪いな。なにニヤニヤしてるんだよ。雄介も早く彼女できるといいなー」
「余計なお世話だよっ!」
とりあえず、俺も彼女を作って早く恋愛で悩みたい。心からそう思った。
(完)
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