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「振られてから冷静になって考えたの。私、浩介にちゃんとお礼を言っていなかったなって」
「お礼?」
「そう、お礼。ワガママばかり言っていたのに、いつも嫌な顔をしないでくれてありがとう。あの時は、黙って別れてくれてありがとうって」
「ああ、うん……そうか……」
俺はなんとも言えない感じで、ムリヤリ笑顔を作った。こんな時、なんて言えばいいのかわからない。
だが、俺の複雑な胸中に反して彼女はすっきりしたようだ。「これで、私も前に進める気がする」なんて言っている。
「とりあえず、良かった……今後は、また前みたいに友達として付き合おうよ」
俺が差し出した手に、彼女は手を伸ばしかけた。が、すぐにその手を引っ込めた。
「浩介は本当に優しいね。でも、その優しさに甘えると私は成長できなくなっちゃうと思うんだ」
「そう……」
「……だから、さようなら」
俺もさようならと呟いて、去っていく彼女の背中を見送った。彼女が完全にいなくなるまで、俺の緊張は続いた。
曲がり角を確認し、彼女が本当に帰ったことを確認すると俺は家に入って思わず床にへたりこんだ。
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