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あなたは覚えているかしら。
ほら、このいい香りの私の好きなお花の事。
私は椅子に座ったまま、ベッドに顔を伏せて眠るあなたにそっと顔を寄せた。
疲れているのでしょう、目の下にはしっかりと隈ができて
眉間には深い皺が刻まれている。
額にかかった髪があなたの心の混乱を現すみたいに、
無造作に乱れてしまっている。
でも長いまつ毛は出会った頃と同じ様に、瞼に深い影を落としている。
あなたの頭を支えている腕から、投げ出された華奢で大きな手を私は両手で包んだ。
少し開けてもらっている窓から、
初夏の湿った夜風が部屋に、密やかな花の香りを運んでくれる。
これは・・そう、あのガーデニアの香り。
あなたが私に告白してくれた時に手渡してくれた花。
あの時からずっと・・ずっと私もあなたが大好きだった。
あなたと共に過ごした何気ない時間が、こんなにも貴重で大事だったなんて。
あなたと積み重ねてきた日々
楽しい日も哀しい日も、全部全部今は大切な宝物。
私はあなたの手に頬を寄せる。
お別れするのは、魂が千切れてしまいそうに辛い。
ずっとあなたといたい。
あなたともっとお話ししたい。
でも・・。
でも・・ごめんなさい・・あなた。
そして心から、ありがとうございました。
あなたに出逢えて、私は世界一幸せでした。
いつか私のことを忘れても・・。
あなたが幸せにしてくれたものがあることだけは忘れないで。
私はガーデニアの花の香りに誘われるように
窓から夜の風に溶ける。
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