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「覚えてるかな?」  寒さと、それから尿意に負けて、独特の体調不良に苦しみながらも何とか起き上がると、見知った人間の声がした。その柔らかな声がした先を辿れば、何故か奴がいた。  あぁ、そうか。これは幻覚か。幻覚まで見えてしまうなんて、なんて恐ろしい二日酔いなんだろう。そう納得したせいか、勝手に溜息が溢れ、ついでに気持ち悪さに襲われる。意識せず右手で口を塞ぐ。   何故か、また奴の声が鼓膜を揺らした。 「大丈夫?」  口を押さえたまま顔を上げれば、奴の心配そうな顔が思ったよりも近くにあった。仕方なく、幻覚ではない現実を認めて、とりあえず首を横に振る。 「結構飲んだみたいだもんね」 「……」 「ちょっと待ってて。今、水持ってくる」  噂通り気が利く奴を止めるために手を伸ばす。悲しいことに、服にすら掠りもせずにベッドから転がり落ちた。目覚めも悪い上に、この始末。つい舌打ちをしてしまう。全部奴のせいだ。  頭の中で八つ当たりしているなんて露知らず、奴は驚きを少し、心配を多く滲ませた顔で戻ってきて、遠慮がちにあたしの両肩を掴み、目を合わせてきた。  噂通り、良い奴なんだなと思った。 「大丈夫だから」 「大丈夫な音してなかったよ」 「そうかもね。でも、大丈夫だから」 「本当に? 無理してない? 膝とかお尻とか、痛くない? あ、気持ち悪いんだったよね? 水と一緒に何か冷やすもの持ってくるから、大人しく待ってて」  あたしがどうしてベッドから転落したのかも知らない奴は、再びあたしに背を向ける。今度はどうにか腕を掴んで引き止めることに成功した。勢いよく振り返った奴より先に口を動かす。 「大丈夫だから」 「けど」 「話の後でいいから」  身体は重いし、頭は痛いし、気持ち悪いし、やけに喉は乾いているから、正直水は欲しい。だけど、まずは疑問を消化したかった。 「なんであんたが、あたしの家にいるわけ?」
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