0人が本棚に入れています
本棚に追加
ネヒロネは乳製品や調味料等を購入し、待ち合わせ場所の噴水へと向かった。
アジガンダはまだ来ていなかった。
噴水の周りには、ぐるぐると走り回る子どもたちや、サンドイッチを食べているカップル等がいた。
皆、幸せそうな顔をしている。
そういえばアジガンダも、水が飲めれば幸せだと言っていたことを、ネヒロネは思い出した。
水には、人を癒し、幸せにする秘力があるのだろうか。
農場でずっと暮らしてきたネヒロネも、当然、水の恩恵を大きく受けている。
根底では、アジガンダと同じなのかな、とネヒロネは思った。
「ちょい」
とりとめのない考えに耽っていたネヒロネのおでこに、アジガンダが指を突き立てた。
「レディを待たせるとは、何事かな?」
「待て待て、僕の方が先に来ていたよ」
「まあ、細かいことはいいじゃない。あら……」
アジガンダは、ネヒロネの左脇腹あたりを見て言った。
「また、シャツに小さな穴が開いている」
「あれ、本当だ。全く気が付かなかったよ」
「このくらいなら、すぐに直せるよ」
アジガンダは、手に抱えていた袋から、針と糸と布を取り出した。
「ネヒロネ、しばらくは動かないでね」
素早い手付きでネヒロネのシャツを直すアジガンダ。
「すごいな……魔法みたいだ」
「大げさだよ」
噴水が水勢を増して、勢いよく立ち昇った。
世界には、魔法が溢れている。
最初のコメントを投稿しよう!