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「おいしい、とてもおいしい」
アジガンダは夢中で食べてくれた。食事を進める手が止まる気配は無い。
ブルーの右瞳からは、涙が流れていた。
「おいおい、泣くほどかぁ? 作った僕としては嬉しいけれど……」
アジガンダの左瞳に掛けられた眼帯を見て、ネヒロネはギョッとした。
「血が……出ていないか?」
眼帯には、血が滲んでいた。ただのものもらいでは無いということだろうか。
「ねえ、ネヒロネ」
アジガンダは食べるのを中断して、ネヒロネに話し掛けた。
「何だい? それよりも、血が……」
「これは、大丈夫。後で話すから」
「アジガンダがそう言うならば、分かった」
「ありがとう。人間というのは、環境に適応する生き物だよね?」
「う、うん?」
「トレーニングをすれば、筋肉量が増えて基礎代謝が増える。ダイエットをすれば、食べる量を減らしても生活できるようになる。取り巻く環境が変われば、身体が臨機応変に変化する」
「まあ、そうなのかな?」
アジガンダは一息ついて、言った。
「ネヒロネは、光合成って知っているよね?」
「ああ、スクールで習った記憶がある。エネルギー変換を行う仕組みだったかな。植物が水と太陽光と二酸化炭素で、有機エネルギーを生み出す。たしかそんな仕組みだった」
「植物も同じだと思ったんだ」
「ん、どういうことだ?」
「もし、植物が光合成をできなくなったら、どうなると思う?」
「うーん、生きていけなくなるんじゃないかな」
「そんなに簡単に諦めるかな? 必死に、それこそ必死に、全く別の方法で生きる術を産み出すんじゃないかな? 私はそう思った」
「そういうものかなあ」
ネヒロネは怪訝な顔をして言った。
「植物もきっとそう。だって、私がそうだったから」
アジガンダは眼帯を外した。そこには光が無く、闇が見えた。
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