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「そうだ、聞いてよ陸也。槙野村ね、くみっこ制度なくなったの」
「えっ!?そうなんだ!」
電話口の陸也はずいぶん驚いた様子だった。
「えー、今日1驚いたわ」
「やっぱあの制度はおかしかったからね。私たち世代が声を上げて終わらせたの」
「大変だったろ」
もちろんずっと続いていた村の伝統を終わらすのは一筋縄ではいかなかったけど。
「村のことは任せてっていったじゃん」
陸也と約束したことだから。
「さすが、俺のくみっこだ」
「私のくみっこが頑張ってんだもん。負けてられないよ」
陸也も中学生に思い描いた夢を叶えたらしい
。何を頑張ってどう夢を叶えたのかは知らない。村を出てからは陸也の物語だ。
「槙野村も変わっていくんだな」
「そりゃそうだよ。陸也が村を出てってからもう10年だよ」
風が吹く。ツツジの花が揺れている。
「……あの時はありがとな」
「ふふ、なにいまさら」
「今日電話した本題。あのときの沙耶の言葉がなかったら今の俺はいないから」
照れ臭そうに陸也は笑った。笑い返した私のほっぺたは夕日に照らされてツツジのようにオレンジ色かな。
「なんだ、てっきり送ってきてくれた手紙の事かと思った」
右手の封筒、送り主は陸也と知らない女の人の名前。
「それももちろん話したかった。沙耶には絶対来て欲しいんだよ」
私は陸也が好きだった。
「ねぇ、さっきの答え聞かせて」
「さっき?」
「ツツジの匂い、覚えてる?」
どうした急に、と彼は笑いながら「もう覚えてないかなぁ」と答えた。
「陸也」
「うん」
「楽しみにしてる」
あなたに会えるのを。
喉まで上がったその言葉を、ツツジの匂いと一緒に飲み込んだ。
だって私が好きなのはこの村にいたあいつだから。
ツツジの匂いを一緒に嗅いでいたあいつに私は恋をしていた。
彼にはもう、彼を愛する人がいる。彼も愛する人がいる。ツツジとも夕日とも関係なく、彼は頬をオレンジに染めることができる。
「結婚式、楽しみにしてるね」
元くみっことして、わたしは陸也を誇りに思う。
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