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この村の基本は相互補完だ。 ここには人がおらず、資源も少なく、つまりは何もない。 だからこそ、人との絆を大事にすることでこの村の社会が成り立っている。 助け合いといえば聞こえがいいが、その実ただの連帯責任、できる人ができない人のために犠牲を強いられている。 くみっこ制度はその最たる例だ。 村で同じ年に生まれた近所の子供同士は自動的に『くみっこ』となり、二人一組での社会生活を余儀なくされる。 小学生の頃から登下校、日直、音読や体育のペアはくみっこ同士。 学校を休んだ日のプリントはくみっこが届けるし、ケンカがおきればまずくみっこを交えて話し合い解決を図る。 一方ができて他方ができないのをよしとしないこの村では、できる方のくみっこはできない方の犠牲となる。 くみっこのテストの点が悪ければ相方のくみっこも怒られるし、片方が遅刻すれば二人で廊下に立たされる。 こんな制度おかしいと思う、でも周りがそうやっている以上私一人が逆らっても辛いだけだ。 「日が長くなってきたな」 陸也は沈んでいく夕陽に向けて伸びをしたあとぼーっと山の下を眺めていた。 私は知っている、陸也はこういうのんびりした時間が好きなことを。 「レンゲツツジの季節になってきたね」 「ばあちゃんがまた言い出すぞ、『レンゲツツジっていうのは綺麗だけどねぇ』って」 「毒があるから近づくなってやつでしょ。おばあちゃんから何度も聞いてる」 そよ風が吹いて甘ったるいレンゲツツジの花の匂いが漂ってきた。 「この匂い、俺好きなんだよな」 「えーこのツツジの匂い?なんか甘ったるくない?」 「匂い自体はそうなんだけどさぁ、なんだろ、この匂いを嗅ぐと夏が始まるって気分になる」 「陸也夏好きだね」 「そりゃそうだ。アイスが美味しいからな」 バカな子供みたいだねと笑ったら陸也も笑い声を上げた。 学校での陸也はどちらかと言うとクラスの端で絵を描いているような大人しめの生徒でこんなふうに大口を開けて笑うようなタイプではない。 でも、ここではこんなに笑ってくれる。私の前でしか見せない顔をしてくれる。 私がテストで赤点を取った後、逆上がりが出来なくてみんなにバカにされた後、「陸也の足を引っ張るな」と先生に怒られた後、陸也はこの場所で同じように笑ってくれた。 太陽が沈む数分前、夕日に溶け込むレンゲツツジ。陸也はレンゲツツジみたいにオレンジ色で、こんな私に笑いかけてくれる。 私はこの笑顔が大好きだった。 この顔で笑う陸也が大好きだった。
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