あの人の

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「ねえ、覚えてる?」  俺の頬に自分の頬をくっつけて、しのぶがもう何度目になるか分からない質問をしてきた。 「覚えてるよ」 「じゃあ、言ってみて」  俺は天井を見つめたまま答える。 「N県イルベ市タキガワ4―13」 「4―16じゃなかった?」  しのぶの温かい息が顔にあたる。 「いいや、そんな訳ない。“死を迎えるは十三日の金曜日”って覚えたんだから」 「なんでよりによってそんな縁起でもない覚え方するのよ」  しのぶが俺に肘鉄を喰らわせる。身体を密着させているので、しっかりとみぞおちに入った。 「うっ」  しのぶは顔を歪める俺を気にせず続ける。 「4、し、だから……幸せの……13っていえば、何だろ」 「さぁ……サーティーン?」 「殺し屋じゃない」  しのぶが再び腕を構えた。俺はさっと腹を隠す。 「だってしょうがないだろ、13ってそういう数字なんだよ、きっと」  しのぶは呆れたようにため息をついた。 「もういいや。数字じゃなくて、漢字の方の話をしましょ」 「イルベ?」 「そう。どういう字を書くのかな」
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