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「うーん。まぁ、普通に考えたら入るに部活の部じゃないか?」
「えー、普通すぎじゃない? あ、矢を射るの射るにその辺の辺かも」
しのぶが宙に文字を書く。
「それだって普通だろ」
「そっか。いる…いる…火にかけて炒るとか?」
「炒めるって字?」
「うん」
俺は真っ赤に燃え上がる炎の上で中華鍋を振るう料理人の姿を思い浮かべた。辛味が効いていそうな真っ赤な麻婆豆腐がお玉でかき混ぜられる。昔食べたあの高い店の味は、もう一度食べられるだろうか。
「……さすがにそれは、地名には使わないんじゃないか?」
「なんでよ、わかんないじゃん」
「案外、ひらがなだったりしてな」
「いるべ?」
「うん」
しのぶは空を見上げた。頭の中でひらがなに変換しているようだ。
「ちょっとかわいいね。でも、ブルベとかイエベみたい。イルベ」
しのぶは、「家出」や「墨絵」のアクセントでそう言った。
「ほぼ方言じゃん」
ふふふと小さく笑う息が、冷え切った俺の鼻先にあたった。
「あとは、タキガワか」
「これは流石に滝と川だろ」
「私もそう思う」
沈黙が続く。
「話、終わっちゃうじゃん」
「うん。もう少し考えるか?」
「いや、いいや」
しのぶは俺の肩に腕を回す。温かい呼吸が首筋をなでる。
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