あの人の

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 辺りはかなり暗くなってきていた。さらに、空からは雪がふり始めた。  俺は下山するのを諦めて、この場で一夜を明かすことにした。 「いいのかな」  オレンジのリュックを手にした俺に向かってしのぶはそう言った。 「仕方ないだろう」  俺は少し離れた場所に横たわるその人をちらりと見てから、一気にチャックを開いた。  幸いなことにリュックの中には、雪山登山に使用するものが一式入っていた。組み立て式のスコップや、わずかだが、食料もある。  俺たちは手分けをして急いで穴を掘った。辺りには雪がしのげそうな所はない。となると、ビバーク、つまり、有り物だけで避難できる場所を作るしかない。  かなり前に受けた研修の記憶を頼りに、2人がかろうじて寝そべれるくらいの穴を作る。俺が雪を掘り、怪我をしているしのぶは、それを外へとかきだしていった。  そうしてできた穴はかなり狭いが、天井はなんとか中で座って過ごせるくらいの高さになった。今の俺たちに残された体力では、これが限界だ。  寝袋もマットもないので、銀色のエマージェンシーシートを広げる。先にしのぶを入らせて、その横に腰を落ち着けた。外にいるよりも幾分か暖かく感じる。  最後にオレンジのリュックを引き入れて、入り口は薄いレジャーシートで蓋をした。完全に閉める前に、少し先で横たわるあの人がちらりと見えた。体の半分ほどが、降って来た雪に埋もれている。  だが、もう限界を超えている俺たちに、これ以上できることはない。俺はシートを閉め、風で開かないよう雪で固定した。  真っ暗な穴の中で、俺としのぶは並んで横になっていた。隣で、しのぶがかすかに震えているのが分かる。  しのぶと俺はただの幼馴染だ。腐れ縁で大学まで同じになり、さらに入ったサークルまで一緒だった。  大学生になったのだから、何か新しいことを始めようと思う所まではほぼ万人に共通するだろう。だが、その中でも登山を選ぶのは何人ぐらいだろうか。  そしてそれを、社会人になった今でも続けているのは。  そこまで気が合うのなら一緒になってしまえばいいのにとはよく言われたが、俺は言葉の通り母親の腹の中にいる時から知り合いだったこいつに、今更そんな感情を抱くことができなかった。  だがこの状況では、もうしのごの言っていられない。  俺たちは抱き合うようにしてお互いをかかえあい、幅の足りていないエマージェンシートにくるまった。
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