彼女の声が聞こえるから

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 彼女は昼夜を問わず、僕に声をかけてくる。  こちらが寝ていようが、仕事をしていようが、トイレに入っていようがお構いなしだ。僕がなにかに熱中していようが、イライラしていようが、唐突に彼女は僕の耳の傍で「ねえ、覚えてる?」と尋ねてくる。  空気が読めないのか、それとも敢えて空気を読まないことで僕をからかっているのか。  叔母の家族や親しい従姉妹といった少ないながらも親族が集まった両親の葬儀が粛々と行われている間ですら「ねえ、覚えてる?」と尋ねられたときには、頭を抱えてしまった。  こんな時にまで話しかけてくるな。悲しむ時間すら与えてくれないのか。と叫びだしたくなったのを、奥歯を噛んで堪えて、住職の読経の声に紛れさすように「覚えてる」と小さくこぼした。  こんな調子だから当然、僕はイライラとして当たり散らすこともあるけれど、彼女は特に気にしている様子もなく、また時間が経つととぼけたように、いつもの調子で「ねえ、覚えてる?」と尋ねてくる。  大学の頃に色々な女の子ととっかえひっかえ遊んでいた奴は、女の子は少し馬鹿なくらいが可愛いよ。なんて言っていたけど、彼女がそれに当てはまるのかはわからない。  僕にはまるで、壊れたおしゃべり人形みたいに思える。 
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