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「ねえ、覚えてる?」
目の前に座る彼女は不意に、そう言った。
言われた私はというと、思い当たることがありすぎて困ってしまった。
彼女とはそれなりに長い時間を共有してきたつもりでいる。
高校1年生の頃に出会い、3年間同じクラスだった。授業はもちろん体育祭も文化祭も球技大会も、私は彼女と過ごした。
私が得意な数学の宿題は彼女が、彼女が得意な日本史の宿題は私が見せてもらっていた。
テスト前は「今化学のワーク終わった」なんて報告メッセージを送りあった。
体育祭の時は携帯使用禁止と知りながら本校舎と別棟を繋ぐ2階の渡り廊下でこっそり写真を撮った。
思い当たる思い出がありすぎる。
「なにを?」
彼女はわたしにどの思い出を覚えていて欲しかったのか。
「わたしが死にたいって言った日のこと」
いや、もしかしたら覚えていてほしくなかったのかもしれない。
「……覚えてるよ」
でも、私は覚えていたから正直に答えるしかなかった。
「そっか」
覚えていて良かったのか、悪かったのか。
彼女は表情を変えないまま綺麗な手でストローをくるりと回した。
アイスティーに浮かぶ氷がぶつかって、カラン、と音が鳴った。
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