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「お帰り、マリア」 呼びかけられた方を、マリアは見た。 まるで日本人形のような少女が立っていた。顎のラインでバッサリ切りそろえられた漆黒の髪に、ぱっちりとした瞳の美少女だ。マリアと同じ制服を着ている。 マリアはにっこりと笑った。 「千夜子」 「用は終わったの?」 「ええ、今日のところは」 「あの男にご執心?」 千夜子はコケティッシュな容姿とは裏腹に、なかなか歯に衣着せぬ物言いをする。 マリアはそんな千夜子の口調には慣れているのだろう、意に介していなかった。 「そうね。どうかな」 まんざらでもないような笑みを浮かべている。 千夜子の頬が膨れた。マリアはそんな彼女をおかしそうに見やった。 「大丈夫、あなたが一番よ、千夜子。あの人は・・・そうね、ちょっと遠い遠い知り合い、かな」 「なによそれ」 「ふふふ」 マリアは笑った。 「さ、家に帰りましょ。お夕飯なににする?」 マリアは千夜子を促し歩き出す。ふてくされつつも、千夜子も歩き出した。 ふと、マリアは足を止めた。 彼の姿は見えないが、彼がいるであろう改札口の方を見る。 「数十年は思い出さないかもしれない。でも」 つぶやいた。 「数百年待ったのだもの。あと百年でも待てるわ」 マリアは懐かしむように目を細める。 そして金色の髪を揺らし、千夜子を追って歩き出した。 心の中で、そっと彼に呼びかける。 早く思い出してね。 そして。 はるか昔に交わした約束がよみがえる。あなたが生まれ変わる前に、私へ誓った言葉だ。 私はその言葉を支えに、ずっと過ごしてきた。 そして、早く私を殺してね。 マリアの瞳が一瞬、金色に光って、消えた。 ーendー
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