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3
「お帰り、マリア」
呼びかけられた方を、マリアは見た。
まるで日本人形のような少女が立っていた。顎のラインでバッサリ切りそろえられた漆黒の髪に、ぱっちりとした瞳の美少女だ。マリアと同じ制服を着ている。
マリアはにっこりと笑った。
「千夜子」
「用は終わったの?」
「ええ、今日のところは」
「あの男にご執心?」
千夜子はコケティッシュな容姿とは裏腹に、なかなか歯に衣着せぬ物言いをする。
マリアはそんな千夜子の口調には慣れているのだろう、意に介していなかった。
「そうね。どうかな」
まんざらでもないような笑みを浮かべている。
千夜子の頬が膨れた。マリアはそんな彼女をおかしそうに見やった。
「大丈夫、あなたが一番よ、千夜子。あの人は・・・そうね、ちょっと遠い遠い知り合い、かな」
「なによそれ」
「ふふふ」
マリアは笑った。
「さ、家に帰りましょ。お夕飯なににする?」
マリアは千夜子を促し歩き出す。ふてくされつつも、千夜子も歩き出した。
ふと、マリアは足を止めた。
彼の姿は見えないが、彼がいるであろう改札口の方を見る。
「数十年は思い出さないかもしれない。でも」
つぶやいた。
「数百年待ったのだもの。あと百年でも待てるわ」
マリアは懐かしむように目を細める。
そして金色の髪を揺らし、千夜子を追って歩き出した。
心の中で、そっと彼に呼びかける。
早く思い出してね。
そして。
はるか昔に交わした約束がよみがえる。あなたが生まれ変わる前に、私へ誓った言葉だ。
私はその言葉を支えに、ずっと過ごしてきた。
そして、早く私を殺してね。
マリアの瞳が一瞬、金色に光って、消えた。
ーendー
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