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「ねえ、覚えてる?」
金色の長い髪を揺らした美少女が、どこか嬉しそうな表情で言った。
ジリリリリ、という音が遠くで聞こえる。
(ああ、うるさい。俺は今、彼女の問いに何か答えなきゃいけないんだ)
ジリリリリ。
(だから、うるさいって!)
バン、と伸ばした腕で音の発生源を叩いた。リン、と最後に鳴いて音は止まった。
「あ」
俺は目を覚ました。止まった音は、目覚まし時計のアラームだったのだ。
「うー」
俺は唸り、両手で頭を抑えた。
「今日もかよ・・・」
実はここ3日ほど、毎日同じ夢で目を覚ましていたのだ。
美少女の名は、マリア。女子高生である妹のクラスメイトで、3日前に街中で妹とばったり遇った時、一緒にいた中の一人だ。
金色の髪に色白の肌。見たまんま西洋人。ただ、日本にずっと暮らしているとかで日本語が堪能。
なにか、人を惹きつけるような、それでいて近づいてはいけないような、そんな不思議な空気をまとっていた。
その彼女が、俺を見て、こっそりと言ったのだ。
「ねえ、覚えてる?」
と。
俺にはなんのことかさっぱりわからず、戸惑うだけだった。
彼女の瞳が、一瞬、金色に光ったように見えた。
そうして彼女は、答えない俺を気にもせず、何事もなかったかのように妹たちと一緒に離れていった。
「なんだったんだろう」
おかげで俺は毎朝、彼女の問いかけに戸惑いながら起きるはめになっている。
俺はベッドから降りて、顔を洗いに階下へ降りた。と、妹がちょうど玄関に向かうところに出くわした。
「おはよ」
「おはよう。お兄ちゃん、まだ眠そうだね。大学生はのんびりでいいねー」
「お前もすぐだよ」
「大学かあ、どうするかな。マリアさんたちはどうするつもりなんだろ」
マリア、という単語にビクッとしてしまった。妹が目ざとく気付き、軽く睨んでくる。
「お兄ちゃん、マリアさんによからぬことを抱いてないでしょうねえ。この間会った時、なんかコソコソ話してなかった?知り合いなの?」
「は?まさか。知らないよ」
俺は動揺を隠しきれず、取り繕うように言っていた。本当にあの時初めて会った。はず。
「・・・ならいいけど。じゃあ行ってきます」
不審そうにしつつも、妹は学校へ出かけて行った。
妹を見送ると、洗面所で顔を洗って鏡を見た。
鏡に、マリアが映る。嫣然とほほ笑んでいる。
「ねえ、覚えてる?」
「・・・いや、知らない」
初めて会ったのだ。覚えてるもなにもない。
俺はタオルで顔を拭くと、朝食を食べにダイニングへ向かった。
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