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騒ぎを聞きつけた早苗もやってきて、私たち3人は、保健室のベッドで身を寄せ合った。
「やっぱり、呪いなのかな……」
落ちたメイクで目の周りを黒く染めた莉奈が、小声でつぶやく。
いつもは気が強い莉奈だけど、実は幽霊や呪いといった話が大嫌いだ。本人は隠しているつもりらしいが、半年も一緒にいれば自然とわかってくる。
「私が手首を切って、莉奈は階段から落ちた。次に怪我をするのは早苗かもしれない」
「やめてよ。これが呪いだったら、どうすればいいの?」
「……ひとつだけ、方法があるかもしれない」
「方法?」
私が言うと、莉奈と早苗はぱっと顔を上げた。
「塾の友達に頼んで調べてもらってたの。景山さんのお墓は、隣町の墓地にあるんだって」
「だから?」
「謝りに行こう。景山さんの怨念を鎮めるには、それしかないよ」
「……わかった」
今度は、莉奈もしおらしくうなずいた。
私たちは学校を早退して、電車に乗った。
スマホで地図と最寄り駅を調べて、電車を乗り継いでいく。
並んで座る私たちの口は重く、会話はなかった。
目的の駅で降り、見かけた商店街でお花と線香とお供え物を買った。
正直、反省とか申し訳ないと思う気持ちはないのだと思う。
ただ、景山さんの『呪い』から解放されたいだけで。
墓地は山奥の、古そうなお寺の敷地内にあった。
お盆のシーズンが終わった墓地に人影はなく、お寺の人もいないようだ。
立ち並ぶ墓石の間を歩いて探すと、目的のお墓は見つかった。
『景山家之墓』
私たちはごくりとつばを飲んだ。
「ここが、景山さんのお墓……」
横を見ると、莉奈と早苗は近づくこともためらっている。
私は率先して線香に火を付け、お花とお菓子を墓前に供えた。
「景山さん、ごめんなさい」
そして、墓地の玉砂利の上に正座し、両手をついた。
「結実……!?」
「仲間はずれにしてごめんなさい。あなたのカバンに虫を入れたり、ほかにもたくさん嫌がらせしてごめんなさい。お願いです、どうか許してください」
「ちょっと、結実。いきなり何やってんの」
莉奈は土下座までした私に引いたみたいで、気味悪そうな目で見下ろしてくる。
だけど、私は譲らない。
「じゃあ私だけ謝るから。莉奈と早苗が呪い殺されても知らない」
そう言って私は墓石に向き直り、砂利の上に額をついた。
ふたりはしばらく無言でいた。
でも、私が長く頭を下げ続けたからか、先に早苗が動き出した。
「私も、呪われたくない」
そう言って私のとなりに膝をつく。
「何よ、早苗まで……」
「ごめんなさい、景山さん。『キモい』とか『死ね』とか、何度も送ってごめんなさい」
「えっ」
早苗がそんなことをしていたなんて、知らなかった。
だから早苗は、裏アカウントにしつこく嫌がらせを受けていたのか。
「あとは莉奈だけだよ」
「で、でも」
「私たちは謝ったからね」
「ね、結実。これで私たちふたりは許してもらえるんだよね?」
「たぶん」
「待って。置いていかないでよ!」
ついに、莉奈も隣に並んで正座した。
自分ひとりだけ呪いを受け続ける恐怖に耐えられなかったのだろう。
「ごめんなさい。結実に虫を仕込ませたり、早苗に悪口を送らせたりして。それから……、階段から突き落としたことも、本当にごめんなさい」
真実を知った私は息を飲んだ。
莉奈がそこまでやっていたなんて。
早苗もこのことは初耳のようで、目を丸くして驚いている。
階段から突き落とされた莉奈があれほど怯えていたのは、そういうわけだったのだ。
「みんな、酷いことをしていたんだね……」
私も、早苗も、莉奈も。
最初は、自分が解放されたくて墓地に来ていたはずだった。
だけどいつの間にか、心から謝りたいと思う気持ちが大きくなっている。
それはふたりも同じらしく、気丈な莉奈までが、目に涙を浮かべていた。
私たちはとぼとぼと歩いて駅に戻った。
「これで許してもらえるのかな……」
莉奈はすっかり憔悴しきった様子で、誰にともなくつぶやいた。
「たぶん、大丈夫だと思う」
「本当に?」
莉奈はまだ不安そうだ。
「うん。景山さんは、私たちほど意地悪じゃないから」
私がそう言うと、莉奈は言葉に詰まった。
「ごめん、私ここで別れるね。お墓の場所を調べてくれた友達にお礼をしなきゃ」
私はふたりに手を振って、駅とは違う方向に歩き出す。
5分ほどで、待ち合わせのカフェにたどり着いた。
ドアベルを鳴らして中に入り、店内を見渡す。
そして、見つけた。
奥の席で優雅に紅茶を飲んでいる、景山仄花本人を。
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