さよならテノヒラ

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 【おはよ! 準備出来た?】  送られてきたメッセージに、すぐさま返す。  【出来ました。今からそっちに行きます】  するとすぐにまた、ポコンッと届く音が鳴る。  【そんな、良いよ。私がそっち行くよ?】  あの人らしい返事で、思わず顔が綻びそうになる。けど、今日は……“今日だけ”は折れるわけにはいかない。  【俺が、アンタを迎えに行きたいんです。……ダメですか?】  少し、あざとかっただろうか……らしくない行動だったと今更我に返ると、段々と少し熱がこもってしまう。  そんな俺の熱を余所に、あの人からのメッセージはすぐに届いた。  【じゃあ、お願いしようかな。待ってるからね】  よしっ……! と、小さくガッツポーズまでしてしまった。  此処に姉貴がいなくて良かったと、本気で思う。  もしいたら、「何? 嬉しそうだね、(ほたる)」とからかい半分で笑ってくるだろう。  そんな頭の中の姉貴に対して、そして浮かれかけている自分に対して、気を引き締めるために咳払いをする。  靴を履いて、ドアノブに手をかける直前――後ろを振り返る。  10年以上、ずっとこの狭い部屋で過ごしてきた。  いろんな思い出が、浮かんでは胸の中に溶け込んでいく。  すぅっ――と。少し埃っぽい空気を吸い吐き出してから、  「じゃあな……今まで、ありがとうな」  ベッドも食器もテーブルも……もう何もない状態に部屋に、そう呟いてからドアノブを回した。
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