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お昼を食べる時以外、なるべく俺たちは手を繋いでいた。
時々、ふわっ――と擦り抜けてしまうけど……すぐに持ち直してまた繋ぐ。
さっきも鈴美さんが買ってくれた珈琲ショップの珈琲の紙カップを受け取ろうとした瞬間、擦り抜けてしまった。
「ごめんねっ、服とかにかかってない?!」
「平気です」
「良かったぁ……ホントにゴメンね」
何も気付いてないフリをし続ける鈴美さん。俺を気遣ってのことだろうけど……俺はもう、本当は気付いてるんだ。
場の空気を紛らわせるために、今度は彼女が俺の掌を引いて水族館へと足を急がせた。
仄暗さに包まれた館内の水槽を、ゆったりと泳ぐ魚たちを見ている間。鈴美さんは他愛ない話や感嘆とした独り言を零しながらも、その握る掌を段々と強めていった。
そして、最後に――――この水族館の目玉とも言われている巨大水槽の前まで来た。
ある海域で生息しているという、様々な海洋生物たちが自由に泳ぎ回っている。
透明なブルー色に揺らめく水槽に手を当てて、鈴美さんはじっと彼らの様子をいつまでも見つめていた。
その眼差しは、弟さんのことを話した時と同じようで――悲しげで、寂しげだった。
休日だから親に連れられて来た子供たちの声が甲高く響いていて騒がしいハズなのに、不思議と静黙とした空気が流れているような感覚に包まれている。
ずっと微かに半開きだった淡いピンク色の唇が、ようやく言葉を紡ぎ出して、
「…………ねぇ、蛍くん」
「はい」
「私、ずっと……貴方に言えないことがあったの」
「…………俺が。俺と姉貴が、とっくの昔に死んでいたことについてですか?」
言い当てられた鈴美さんは、目を丸くして、こちらに視線を向けた。
「どうして、それを…………いつから、気付いていたの?」
「姉貴が、アンタと親しくなり始めた頃からです」
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