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プロローグ
「ねぇ、私のこと、覚えてる?」
残業終わりの帰り道、私は突然背後から話しかけられた。
制服を着ていて、見た目からおそらく中学生ぐらいの女の子で、まっすぐに私を見ている。
「私のこと、覚えてる?」
先ほどの質問を繰り返されるが、私にこのぐらいの子の知り合いなんていない。
「人違いじゃないかな。こんな夜に一人でいるの?親は?」
とりあえず周りを見回すが、それらしい姿はない。
困ったな。
どうしようかと思案していると、その子は悲しそうな表情を浮かべ、さらに私を困惑させた。
「人違いじゃないよ。よく見て。思い出して」
「えっとぉ……」
「私は覚えてるよ。さなえちゃんのこと。大事な鉛筆無くして探してたから、私が見つけてあげたの」
私はこの子の言葉に、冷たいものが背中をなでた感覚を覚えた。
「約束したでしょ。10年後も覚えてるって!」
「そんなの知らない。いたずらならやめて!」
「わかった。覚えてないんだね」
声のトーンを落とし、光の宿らない瞳を向けられた瞬間。
私の体はまるで金縛りにあったかのように固まり、かと思えば私の意思に関係なく駆け出していた。
車道に向かって。
視界の端でとらえた。大型トラックがすぐそこまできてい―――ドンッ!!!
「また、忘れられてた。もう嫌……。次は、6日後。……お願い、お願い、あなたは、あなただけは、覚えていて。私を助けて。ユウヤ」
呟きと共に流された涙。
頬を伝い、地に落ちる寸前、彼女の姿は消えていた。
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